振り向きざまにキス





――久し振りに、骸と喧嘩をした。


私は涙で崩れた顔を更に歪ませ、泣きじゃくる。

嗚咽が止まらなくて、この顔は誰にも見せれたものじゃない。



「骸なんて、骸なんて…!もう知らないっ」



私とのデートの約束より、綱吉君に会いに行くだなんて、そんな人だとは思わなかった…!

また寂しさと悔しさが一気に込み上げて来て、余計に服を濡らした。


ぐすん、と鼻をすする音が、誰もいない自室に響く。

今何時だろう、と顔を上げた、その刹那。


──ガチャン


扉が音をたてて開いた。

泣いていて気付かなかったが、どうやら家に誰か上がっていたらしくて。



「姫…っ!」

「…む、くろ……」



立っていたのは、否私に駆け寄って抱き締めてきたのは――骸だった。


首元に掛かる彼の吐息は、とても荒くて。

額に滲んだ汗が暗闇に微かに光る。



「走って、来たの…?」

「勿論。ずっと貴女を探していたんですよ」

「…そう、だったんだ。」

「心配しました、姫……」


良かった、と言って私をより強く抱き締める。

背中から伝わる温もりが、私の頬を熱くした。

「こんなことになるのなら、姫と居れば良かった…」

「もういいよ、骸」

「泣かせてしまって、すみませんでした」



もういいよ、ともう一度呟いた私。

骸が来てくれて嬉しかった。

どうしようも無く、嬉しかった。



「大好きですよ、姫」

――愛してます、心から。

「うん…っ!」



振り向きざまに交わしたキス。

泣いて赤く腫れたその瞳は、いつの間にか自然と笑っていた。



(貴方だから許せるの)
(だって大好きなんだから)






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