君を想う子供達のはしゃぐ声がする。 昼間の商店街は、大人から子供まで沢山の人で溢れていた。 昼間に出掛けることなど、普段では到底有り得ない。 そして隣に彼がいて、何だか胸が弾んでいた。 今年の夏休みも始まったばかりだ。 姫は、ツナと出掛ける約束をしていた。 「ツナー待った?」 「え、あ、いや、全然!」 どこか向こうを向いていた彼を呼び止めると、彼は少し驚いたように振り返り、慌てて笑顔を作った。 その挙動不審な行動を、姫はじっと見つめた。 この暑さのせいか、うっすらと汗がにじみ出る。 そして、ツナが見ていた方向に視線を移した。 「……京子ちゃん」 そこには、並盛中学校一の美少女、笹川京子がいた。 ケーキ屋の前で、楽しそうな顔をしてケーキを覗いている。 女の自分から見ても、その姿はまるで天使のようだった。 行き交う人でさえも、彼女を振り返り見ていて。 「ツナ…早く、向こう行こ」 「うん、そうだね!」 何だかとても、悔しかった。 自分に彼女以上の魅力がないのは百も承知。 だがこの時間だけは、今だけは、ツナに自分だけを見ていて欲しかったのに……。 「姫?」 黙り込む姫を、ツナは心配そうに覗き込んだ。 その大きな瞳が、私の目を捉えて。 姫は思わず頬を赤らめると、すっと目を逸らした。 そしてにこりと笑い何事もなかったかのように、何処に行く?と問う。 「え、俺は何処でもいいけど」 「私も。ツナ、決めていいよ」 「んーそうだな……」 彼は暫くの間考え込むと、閃いたようにぱっと顔を上げた。 姫の腕を力強く掴むと、そのまま走り出す。 「ちょ、ツナ!?」 「いいから、いいから」 何処に向かってるのと聞こうとするが、ツナは笑うだけだった。 どうやら、来た道を戻っているようだ。 先程通った商店街の看板を潜り抜けていく。 そうして辿り着いた先は――。 「ここって……」 京子ちゃんがいた所、と呟こうとしたが、口をつぐんだ。 ツナは彼女を見に来たのだろうか。 姫が不安げに俯くと、ツナは咄嗟に口を開いた。 「ケーキ、食べたかったんだよね?」 「…え?」 「だって、ほら!さっきずっと見てたし」 ツナの言葉に、何だか抑えきれない感情が込み上げてきた。 何て鈍感なんだろう…! 彼の掌を握ると、真正面から見据える。 「あれは、京子ちゃんを見ていて…!ツナがずっと見ていたから…っ」 「お、俺が…!?違うよ、姫!」 「何が、違うのよ!」 思わず零れ落ちた涙。 それを見て慌てた素振りを見せたツナだが、直ぐにぐっと唇を噛み締めた。 「違うんだよ、姫」 そして姫をふわりと抱き寄せると、ツナははにかんだように笑い、恥ずかしそうに小さな声を漏らす。 「姫ならどのケーキを選ぶかな、って……ずっと、考えてたんだ」 「う、嘘よ…っ」 「ううん、本当だよ」 涙は枯れたように、最期の一滴を残しすべて地に落ちた。 ――俺が愛しているのは、君だけに決まってるでしょ? ツナはさも当たり前のように、クスクスと笑い声を漏らす。 私の髪を撫でる指先も、抱き締めてくれる腕も、全てが愛しくて仕方無かった。 (ねえ。愛されるということは、こんなにも切なくて、こんなにも温かいものだったの?) ←back |