その時まで、カキィーーン…――! まるで耳鳴りのような重低音が、体中に響き渡る。 雲1つない綺麗な青空を見上げ、私は叫んだ。 「ナイスバッティンーグ!!」 そう言うと、必ず山本は振り返って、私ににいっと笑うのだった。 「はい、差し入れ」 「悪ィな、さんきゅ!」 いつものように彼のホームランを見て、いつものように彼に差し入れを届ける。 これが"幼馴染"である私の日課だ。 「ねえ、今度の日曜日さー」 「悪い、試合入っちまってさ。また今度、な?」 分かった、そう笑って返すが、本当は心の中で泣いていた。 いつまでたっても幼馴染としてしか見てくれない山本に、正直嫌気がさす。 「じゃあさ、明日の放課後は空いてる?」 もしかしたら……、そう期待してみたがやはり答えはごめん、だった。 今までずっと見続けてきた、彼の背中――。 真っ暗になっても、たった一人真剣な面持ちでバットを振って。 雨の中、泥まみれになりながらも必死でボールを追って。 さよならのホームランを打った時に初めて、最高の笑顔で笑う。 そんな、野球をしている山本の姿が好きだった。 前向きに頑張る彼だからこそ、好きになれた。 でも、これでは――。 寂しさと不安の入り混じった、冷たい感情が私の心の中に巣くった。 また、同じように朝は来る。 今日も山本は練習か…。 そんなことを考えながら、重たい気持ちで扉を開けた。 しかしそこで待っていたのは――、 「よお、早いのな」 思いもよらぬ人物だった。 そう、朝練があるはずの彼が、制服を着てそこに立っていたのだから。 「や、山本っ!?今日、練習は…?」 驚きの余り、声が僅かに裏返ってしまう。 慌てて外に出ると、彼はいつものように笑ってみせた。 「俺の夢、姫に聞いてもらおうと思って」 練習は休んで来た、と笑う彼に、本当は一喝入れてやるべきだったが、心はとても安心していた。 春の心地よい風が、二人の間を行き交う。 あちらこちらで蕾を膨らませた、桜の花はそろそろ咲く頃だろうか。 待っていてくれ、立ったままの彼はそう言った。 夏の大会で、絶対にさよならホームランを打ちてーんだ、とも。 山本は私と目を合わせると、またはにかんだように笑うのだ。 「さよならを打つ、その時は、姫に一番近くにいて欲しいのな」 青い空はどこまでも澄み切っていて、今日もどこからか、金属音が響いている――。 ←back |