瞳の奥の輝き久し振りの任務を言い渡されたのは、つい昨日のことだった。 「…懐かしいな」 任務の地は、祖国"日本"。 多数体存在するアクマの破壊、と至ってシンプルな任務の筈だった。 事実、教団屈指の強さを誇るとされている神田には、余りに簡単すぎる使命で。 しかし、当人の彼にとって只唯一誤算だったのは――、 「……にい、に…?」 ふいに聞こえた、幼き声。 神田は声のした方に振り向くと、今忙しいんだと言わんばかりの仏頂面を返した。 見た姿は、まだ六歳にも満たないであろう幼子だった。 くりっとした黒い瞳が印象的な、ごく普通の女の子。 袖裾が少しばかり汚れてはいたが、真紅の着物に身を包んだ小綺麗な姿は、どこか裕福さを思わせる。 それでも頼りなさげな瞳で此方を伺い、今にも抱き付いてきそうな寸での所で足を止まらせていた。 しかし案の定、子供が苦手な彼は、面倒臭そうに少女を無視して過ぎ去る。 「待って、待って…っ」 少女は小さな声で、胸を弾ませながら追いかけて来る。 これでもかと言うくらい、しつこい。 神田はむっとした表情で、彼女を睨み付けた。 何で追いかけてくるのかなんて知らない。 そんなこと、興味も無かった。 なのに、そいつは諦めること無く付いて来る――。 しびれを切らした神田は、ゆっくりと立ち止まり標的を見据えた。 少女はぐったりとした表情で、ぜいぜい息を切らしている。 「あの、ね……?」 暫く息を整えると、それから彼女はにっこりと笑った。 しかし少女の表情は、どうしようもなく絶望している、その感情にとてもよく似ていた。 『ニ、ゲ、テ……』 ああ、そういうことかよ。 『ゴ…メンナ…サ、イ…』 顔面に張り付いた、笑み。 ゆっくりと流した、涙。 あのねあのね、と薄い唇から零れ出る少女の声とは別に、胸の奥底から湧き出てくるような、謝罪を告げる機械音。 全てが同時に起こり、またそれと同時に、神田は"そいつ"を斬りつけた。 子供は好きじゃない、興味も無い、その筈だった。 だけど、だけど――。 「お前、…寂しかったのかよ?」 何故だか無性に悲しくなった。 幼い、生きられた、まだ人生はあった。 「ちッ……」 印象的だったのは、黒い瞳。 吸い込まれそうなその瞳には、確かに命が宿っていたというのに。 (ありがとう、お兄ちゃん)(ずっとずっと…消エタカッタ。) ←back |