眼帯の秘密





十三時告げる鐘が、教団中に鳴り響いた。

教団にただ一つしかない食堂はそれと共に賑わいを増す。



「ねえ、ラビ」



その端の一角に、ラビと姫は腰掛けていた。

ラビは大好きな焼肉を頬張りながら、彼女の言葉に耳を傾ける。



「何さ、急に黙り込んで」

「……あ、あのね、ずっと気になってたんだけど」



忙しなく動かしていた箸を止めると、ラビはゆっくりと顔を上げた。

口をもごもごと動かしながらも、その目は姫を見詰める。


姫は意を決したかのように膝に手を付くと、口を開いた。




「その眼帯の下って、どうなってるの?」



二人の視線が交わる。


予想外の言葉だったのであろう。

ラビは意表を突かれたかのように、目を大きく見開くと、思わず箸を落とした。



「え、いや…それは秘密さ」

「何で」

「な、何でも…!」

「絶対、駄目?」

「絶対駄目ッ!!!とにかく駄目さ!」



そんなこと言われたら、余計気になるじゃないか。


頑なに拒む彼に痺れを切らすと、姫は眼帯に手を伸ばした。

しかし、あと一歩のところでラビの手がぎゅっと掴む。



「…ラビのスケベ。」

「ちょ、何でそうなるんさ」



苦笑いした彼の隻眼をじっと見つめる。


ほんと、一体どうなっているんだろう……。

もしかして目の色が違うとか、目がキラキラしているとか…、いや、過去に何かあって目が開かないのかも。

実は奥二重なのを隠しているだけかもしれない。


考えれば考えるほど、その謎は深まっていく。

うーむと姫は小さく唸り、ラビをただじいっとだけ見詰め続けた。

ラビは深くため息を吐くと、声を漏らす。



「…そんなに見たいんさ?」

「うん!」



姫が大きく頷くと同時に、ラビは握っていた手を強く引っ張って。

思わず机の上に身を乗り出した彼女に、にこりと満面の作り笑いをすると、



「姫が悪いんさ」


と、耳元で呟く。



そして小さなリップ音と共に、頬に軽い口付けをした。



「な…っ!?」



顔中が火照ったように、熱くなって行く。

姫はそれを必死で隠そうと俯くと、小さな声でぼそりと吐き捨てる。



「…ラビのスケベっ」



誰も見てはいないし、誰もこの関係を知りはしない。

また、二人だけの新しい秘密が積み重ねられて行く。

惚れた弱味だと、上手く丸め込まれた姫は悔しそうに唸っていた。



(君は秘密と言ったけれど、私は君しか知らないことを知りたかっただけ。)






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