Parallel Lines





朝日が眩しい事も、青空が澄んでいる事も、緑が茂っている事も。

すべて全て忘れてしまうような、濃い霧に覆われた朝だった。


私は欠伸をしながら、トーストを口に喰わえる。

サクッとした音と、トーストから香る香ばしい匂いが、どうにも不釣り合いだ。



「珍しいこともあるものね」



窓から外界を覗き、そう呟いた。

そうしてカーテンを閉めると、窓際に立て掛けてある写真立てに手を伸ばす。


そこに写るのは、母さんと私とそして、――貴方だった。



「……ねえ、ラビ…?」



もう、何年も前になるだろうか。

同じ時を過ごして来た筈だったのに、あの頃から私とラビはすれ違っていた。



「そうね、二人には夢ってあるのかしら?」

「私は、ラビのお嫁さんになりたい…!」

「俺はブックマンってのになる」



すれ違ったまま、その夢は今も変わらずあり続けている。

私もラビも、あの時から夢は何一つ変わってはいないのだ。


私はカレンダーを見上げると、赤くハートの印で囲まれた今日を見つめた。

その赤に、何故だか涙が滲む。


その時だった、静まり返った部屋に鳴り響いた、電話のコール。

私は慌てて受話器を手に取り涙を拭う。



「もしもし…?」

「あ、俺さ!久し振りさね!良かった、電話が繋がって」

「ラ、ビ…?ど、どうしたの…?」

「実は明日そっちに任務で向かうんさ。アクマが出たって言うし、姫も気を付けろよ?」



久し振りに聞いたラビの声は、昔よりもほんの少しだけ大人びていて。

その言葉に、うん、と力無く微笑むと、私はもう一度カレンダーを見つめる。




『ラビ、誕生…おめでとう――。』




受話器を離して囁いたその言葉は、彼の耳に届いていたのかも分からない。



「ごめんね、」



貴方が明日来るのなら、ご馳走をいっぱい用意しなきゃね。

母さんの元気なところも、見せてあげなきゃね。



「でも…ごめん、ね…」



私はもう一度呟いた、そしてまた、もう一度。


母さんはもういない。

そして明日、貴方の手に掛かるのは、紛れも無い、この私だと思うから……。



「昨日来てくれてたら、きっと今日は一緒に誕生日を祝えたのにね…」



でも、もう遅かった。

母さんもラビもいない家にたった独りだなんて、耐えられなかった。

だからそう、昨日の晩、私は"悪魔"の手を握ったのだ。

千年伯爵と呼ばれた"あの人"は、明日再び迎えに来るとだけ告げ、去っていってしまった。

私に母さんの<身体>を与え、母さんの<身体>に私の<心>を残したまま――。



いつだって空回りして、すれ違う私達。

同じ時を進むのに、決して交わらないそれは、まるで平行線のように。



私は扉を大きく開け放つと、深い霧の中に身を隠した。

もう理性なんて保てたものでない。


そのまま身体中の機械音に身を任せ、ただそっと、一粒だけの涙を流した――。




(HappyBirthday、See you again!)
(次会う時は私を壊して)






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