同じだけど違う君





月夜は風が冷たくて、それがまた心地良い。

そっと肌を撫でていくようで、髪も静かに揺れている。


そんな中、溜め息交じりに息を吐き出すと誰かが後ろでくすりと笑った。



「……何か用かよ?」

「別に?何でもないですよ」



誰だとは聞かずとも分かってしまう。

別に知りたい訳でもないのだけれど。



「てめーにそこに居られると、迷惑だ」

「困りますよ、僕だってたまには夜風に当たりたいんです」



自分の言うことを聞かない奴は大勢いるが、その中でもコイツだけは特に苛つく。


チッ…と軽く舌打ちをすると、神田は窓枠に手を掛けた。

がしかし後ろにいたそいつも、その隣につき同じ格好を真似てきて。



「真似すんじゃねえよ、モヤシ…!」

「ま、真似じゃないですよ!」



そいつ…、アレンが、ムッとしたように顔を上げると一瞬目が合ってしまった。

すると直ぐあからさまに彼は目線を逸らす。


――明らかに様子が可笑しいだろ…。


沈黙しながらも、神田は居づらさを感じていた。


「はっ…モヤシがやけに大人しいじゃねーか。思春期かよ?」

「神田こそ、誕生日だってのに随分と湿気た面してますね。」



神田がそう嘲笑うと、アレンは覇気の無い声を返した。

いつもならここで言い合いになるはずなのだが……。


今日のコイツを見ていると、何故だかそんな気分にはなれなかった。



「いつもだ。」



そう短く言葉を返すと、もう一度彼を見る。



「何ですか?」

「…俺は、同情なんてしないぜ?」

「……そんなこと、何より先に分かってますよ」

「はっ、流石だな」



アレンは一度伸びをした後、目線を上に向けると、神田の傍から離れた。



「あ、そうそう!リナリーが探してましたよ?」

あとコムイさんも、科学班の皆も、ね…?

「神田は大人気ですね、良かったじゃないですか」



今度はいつものようににこりと笑い、いつものように人当たりの良さそうな声で話す。

ほんの少し乗せた俺への棘を十二分に隠した、真っ白な微笑み。

その胸の内にはどれほどの闇を抱えているのか、俺には知る由もない。



「誕生日なんですから、少しは皆にも会って来たらどうですか」

「…余計なお世話だ。」



遠くを見ていると、アレンが次第に遠ざかって行くのが分かった。

興味も無い、関係も無い、そうただのムカつく奴。


だが、そいつが何時もと違うだけで…、どうしてこんなにも不快な気持ちになったのだろう――。



(笑えば世界は幸せだって、きっと僕らは願ってた。)






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