眠りの中で、初夏の風が、ふわりと外から舞い込む。 蝉の鳴く声が、どこからともなく響いていた。 姫は声を漏らしながらゆっくりと大きく背伸びをすると、隣に座る彼に目を遣る。 「まだ…食べる、さぁ…」 いつの間にかラビは机に突っ伏していて、すーすーと可愛らしく寝息を立てている。 きっと自分でも気付いてないであろう寝言に姫は聞き耳を立てると、くすりと笑ってみせた。 「…待て、って……、まだ食べ終わって…ねえさ…」 ラビが今、どんな夢を見ているのかなんて、これを聞けばすぐに分かってしまう。 何て分かり易い人なんだろう――。 しかし何処かあどけなさが残る、その純粋さが、好きだった。 ぐっすりと気持ち良く眠る彼に釣られるようにして、姫も大きな欠伸をひとつ。 そういえば、昨日の夜から一睡もしていない。 こんな陽気な天気の日は、眠気も襲ってくるものだ――。 「…、…っ……姫ーっ…」 真っ暗な視界の中で、何度も誰かに呼ばれた気がして。 姫は重い目蓋をこじ開けると、焦点が合わないまま顔を上げた。 「おーい、姫ー。起きるさー!」 いつのまに眠ってしまったのだろう。 姫はラビの声に、がばっと飛び起きた。 そんな彼女を見てラビは少し驚いた顔をすると、すぐにお寝坊さんさ、と微笑んで。 なぜだろう、眠る前よりもラビの機嫌がいい気がする……。 姫はラビをじーっと見つめると、首を傾げた。 よく眠れたのだろうか……、いや、それにしたら寝起きが良すぎる…。 「何さ、そんなじーっと見て?」 「い、いや!やけにご機嫌だなーと思って……」 「んー?そうかー?」 姫が怪訝そうな顔をしても、彼はまだにこにことしていた。 気味が悪い、と姫は少しだけ身構える。 「…何か、あったの?」 恐る恐る聞いてみれど、ラビはいーや、何も?と笑った。 その後も姫がラビをちらりと盗み見るたび、彼が上機嫌なのが伺えた。 何が何だか分からない彼女は、その理由が自分の寝言だとも知らずに、ただただ不思議がるばかりだった――。 (いつも言葉にできないそれも、眠りの中でなら君に伝えて…) ←back |