俺の隣はお前だけに





今日もデートをドタキャンして、土方さんは部屋に籠りきりの仕事だった。

しかし何時もとは少しだけ違う事、それは――、



「何ニヤニヤしてんだ、姫」



隣に土方さんが居るという事。

仕事をしているのに変わりは無いけれど、一緒に居れるだけで私は嬉しかった。

壊れてしまった彼の家のパソコンに本気で感謝したい!



「あのー…ここのパソコン、使いやすいですか?」

「ああ。本当助かったぜ」

「いえいえ!私なんかがお役にたてて良かったです」



土方さんはデスクワークが殆どだから、パソコンが無いと困るらしい。

だからネットカフェに連れて行く事を口実に、ちゃっかり同席した。

現に、彼の綺麗な横顔をこんなにも近くで見られて──。


今更考えてみれば、どうしてこんなに素敵な人と付き合えたのだろう。

思えば思うほど、嗚呼泣きそうなくらい嬉しくなる。



「だけど、想定外だったな…」

「え、何がですか?」

「……まァその、一室がまさかこんなに狭いなんて、…思ってなかったからよ」

「あっ、ああ!そうですよね。私、お邪魔ですね」



そうか何だ、一人浮かれて馬鹿みたい。

私はきゅっと唇をキツく結んで、重い腰を上げた。

彼にだけは嫌われたくないから、さっさと此の部屋を出ようと思った……のに。


私の手首を力強く握り取ったのは土方さん。

そして、力強く引き寄せて私を椅子に戻したのも──土方さんだった。



「あ、の……?」

「そうじゃねェ」

「土方さん?顔赤──っい!?」



ふいに奪われた唇。

頬に大きな手を添えられたまま、降ってくるキスに戸惑って。

酸欠で苦しそうに顔を歪めれば、今度は優しく抱き寄せられた。


……土方さんは狡い。

ほらやっぱり顔真っ赤、じゃないですか。



「すっげえドキドキすんだよ」


お前の息が耳元に掛かって、お前の体温がすぐ側にあって、


「……仕事どころじゃねーんだ。もっとずっと隣に居て欲しいなんて思っちまって、」


──離したくなくなった。



狭い部屋の中で身を寄せ合って、土方さんはそう私に囁いた。

そっとその掌に触れてみれば、二人して上がり続ける体温を感じる。

……其れが何だか凄く、気持ち良かった。


プツリ、パソコンの電源を土方さんが切れば、室内の熱気がふっと冷めた気がして。

その代わりに、私と彼の甘い微熱だけが残ったようだった──。





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