壊れるまで愛し続ける





ひゅるり、冷たい夜風に肌寒さを感じた真夜中。

珍しく星も月も見えない闇夜で、寒さのせいかぞくり背筋が凍る感覚。


――否、眼前に佇む彼女の瞳に射られたせいか。



「くすっ、こんな夜中にデートのお誘い?…それで、話って何かしら?土方さん」

「……………姫。」

「いい話じゃないみたいね」



彼女には何でも見透かされている自分、逆に彼女の事は何一つ見透かせない自分。

好きなのに。情けない。

俺はくしゃり、と髪を掴むとその指先に力を込める。


好き、なのに──どうすればいいのか、もう分からないんだ。


頭皮に痛い程食い込む指に顔を歪めながら、口をゆっくりと開けば、



「ねえ土方さん。別れよう、なんて言わないわよね…?」



冷たくて鋭い視線。

それでいて、俺に真っ直ぐに愛を主張してくるから、俺は思わず背けたくなってしまうのだ。


力の籠った俺の指先に自分の指先を重ねて、それからぎゅっと包み込んでくれた彼女。

ひんやりした肌を愛おしく感じながらも、本当は少しだけ…怖かった。



「本当にお前には何でも分かっちまうよな、姫…」


今優しくされたら、俺が手放せなくなると知っているから……なァそうだろ?


「分かるわよ、大切な人の事だもの。最近の土方さんは狂信的に貴方を愛す私が怖いの、だから…ね?」

「…っ…別れて、くれねーか」

「やっぱり。──でも嫌よ。だって私は貴方が、」



好き好き、大好きなのよ、貴方だけを愛しているの……紡がれた言葉は悲壮な響きを漂わせ。

辛い痛い苦しい、と俺の心は軋みと共に悲鳴を上げる。


俺だって姫を愛してる、その気持ちは変わってなどいないのに。

──お前の歪んだ愛を受け取るには、どうにも器が足りなかったようだから。



「土方さんは変わったわ」

「変わったのはお前もだろ」

「そうね、……だけど絶対に離してあげないんだから」



少しずつ少しずつ、彼女の愛情がずれ始めている事にずっと前から気付いていた。

確かな、違和感だった。

俺が其れに微かに恐れを抱いたのは、紛れも無い事実。


──それでも。彼女が優しく優しく、そうやって俺に微笑むから。




「……くそ、っやっぱどうしても離れらんねーんだ…っ」




ほらね、だから言ったでしょう?

私には貴方が貴方には私が、必要なの、ねぇそうでしょう。


満足気に笑った彼女の顔を見ないようにと、刹那、俺は無理矢理唇を奪った。






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