飴模様。





雨がしとしとと降り始める。

雨は嫌いだ。湿気で頭がガンガンするし、何よりマシな思い出がない。

雨は嫌いだ、大嫌いだ。早く止んでしまえばいいのに。



「憂鬱、だなあ…」



暗く淀んだ空気のまま、店の前で立ち尽くす私。傘を忘れて帰れそうにない。だけど、傘を買うお金も持ち合わせてはいない。

私は雨に背を向けて、壁を見つめるという、何とも不思議な姿勢をとった。



「あれ、何やってんのお前…」

「あ、銀ちゃん?傘、忘れちゃって」

「いやいや、そうじゃなくて」


何で壁に顔向けてんの!


呆れたような、その声。私の肩に手を置いた彼に、私はやっと振り返った。久し振りに見た、銀ちゃんの顔。



「おら、入れよ……って!何笑ってんの!??」

「ご、ごめ…っ!いや、相変わらず死んだ魚のような目してるなって」

「……姫さぁ、時々すっげー酷いよね」



はあ、と肩を落とす銀ちゃんに、私はもう一度ごめんと謝って。だが顔はにやけたままだ。

仕方ねーな、と笑う銀ちゃん。そして少し小さめの傘に私を引き込むと、身を寄せ合った。



「狭い。」

「文句言うんじゃねーよ」

「じゃあ、ありがと」

「……はいよ。面倒くせェけど、送ってく」



そう言って、頭をボリボリと掻く銀ちゃんを、私はじっと見つめた。私より大きな肩幅は、この傘の中じゃ狭そうで。だけど文句一つ言わず、私を濡らさないように身を縮めているのは、きっと彼の優しさ。



「銀ちゃん。死んだ目してても、やっぱ格好いいや」

「あったりめーだろ」



雨の日は嫌い。

だけど、こうして貴方の傘に入れて貰えるのなら――、それもいいかもしれないね。





((雨のち晴れ?))

(小さな傘に身を寄せ合い、)
(貴方の心音が聴こえたの)






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