愛しい君に愛の花束を放課後の教室――。 其処はしんと静まり返っていて。本当に二人きり、だった。私達は向かい合わせになり、白い紙とじっと睨めっこしている。 「さぁ、どれにしやすか?」 「え、もうちょっと待ってよ…!今格闘中なんだからっ」 「は?誰と、」 「自分の中の羞恥心と」 何でィ、そりゃあ…と総悟は鼻で笑うけど、何よ!私にとったら重要な事なんですっ。 一見ババヌキのように取れる光景だけれど、違うのだ。私は今、総悟へのプレゼントを選ばされている。彼の手にある四枚のカードの内、一枚を引いて其れを叶えてやる…――其れが総悟の望むプレゼントなのだから仕方無い。 「総悟、きっととんでも無い事書いてそうだし。絶対私に無茶振りしてそうだし。慎重にいかないと、ね」 「あり?随分信用ないんですねィ、俺。まあ大丈夫、兎に角引いてみなせェ」 不敵に笑う彼を見て、少しだけドキドキする。あんな事やこんな事をしろって書いても、可笑しくない奴だコイツは。…って、何考えてんだろ私! 私はパチン、と頬を叩くと意を決して紙を引き上げた。そしてそっと、裏返してみれば。 ――俺に睡眠時間を下せェ。 「あれ?案外普通だ…」 「バカ姫、だから大丈夫って言ったじゃねーか」 「う、うん。ちょっと拍子抜けかも…。これなら、他の3枚共叶えてあげられそう」 「あ、言いやしたね?なら他のも引きなせェ」 小さく頷いて。ずいっと、差し出された紙を私は再び一枚抜き取る。今度は、――土方クソのマヨネーズを隠せ。 良かったと言えば良かったのだけど、本当の事を言えば少し寂しかったり。もっと私を欲してくれると思っていたから。 あ、だけど次の――アフロ被ってアン●ンマンマーチを歌って踊れ、は大分キツい。 「それじゃ、姫。それちゃんと全部叶えろよ」 「これね。はい、了解ー」 「……違ェ、裏でさァ。その紙の裏、見てみなせェ」 最後の一枚、校長先生のヅラを遠くから飛ばせを引いた私は、きょとんと目を瞬かせる。 裏って、どういう事だろう? 恐る恐るひっくり返してみれば。其処には本当にとても細かい字で、小さく小さく文字が綴られていた。騙された、そう気付くまでコンマ数秒。 ――此れから毎日、放課後は一緒に帰りたい。(+手繋ぎ) ――俺が抱き締めたい時に、抱き締めさせろ。(キスも然り) ――あんたは俺一人で独占したい。(つーかさせなせェ) ――今すぐ、あんたからキスすること。(愛の言葉含む) かあ、頬が急激に熱くなる。 不意打ちだ、狡い。こんな純粋に愛されて、嬉しくない訳ないじゃない…!何だか私がプレゼントを貰ってるような気さえした。 総悟の瞳が、私にキスを促す。私もそれに応えたいと思った。身体が火照る、やっぱり自分からは恥ずかしい。けど……、 「…憎たらしいヤツ。」 「最高の誉め言葉でさァ」 「だけど、…好きで好きでどうしようもないみたい。お誕生日おめでとう、総悟」 ちゅ、柔らかな感触と共に甘いリップ音。姿勢を屈めてくれた事に感謝しながらも、背伸びをしてやっと届く彼の唇。 目があった瞬間、花のように彼が笑ったから。私も視線を絡めて微笑んだ。 (…俺も、あんたが可愛くて可愛くて仕方ねーや) ←back |