幸せの定義





ぱしゃり、パシャリ──。


一歩、また一歩と水溜まりに足を踏み入れれば、水飛沫が輝きを放ち宙を舞う。胸の音はリズミカルに、弾む息は楽し気に。

私は坂道を全力疾走で駆け上がった。



「おい、姫!んな急ぐと転ぶぞ…っバカヤロー!」



朝日を背景に、銀ちゃんは頂上で私を呼ぶ。少し困った顔をして、ふんわりと柔らかい髪を掻きむしった。だけどその表情は心なしか笑っていて。


(よしっ、あともう少し!)


いつもは気の遠くなる程長い坂道が今日は少しだけ短く感じる。はあはあ、呼吸を乱してラストスパート。



「お待たせ銀ちゃんッ!」

「は、ちょ、おま…!止ま、」

「到着ぅー!」



たんっ、踏み締めた平らなコンクリートを踏み台にして、私は銀ちゃんに抱き着いた。勢い余って……なんかじゃなくて思い切り確信犯。

驚いた顔をして、でも飛び付く私を彼は大きな両腕で抱き留める。



「えへへ、ごめんね?」

「えへへ…じゃねーでしょうが!ったく、姫は危なっかしくて見てらんねーから!」

「えーちゃんと見ててよー」

「……つーか今日はやけに甘えてね?お前、…可愛すぎ。」



そう言うと、銀ちゃんは私の身体をふざけながらキツく締め上げて。わしゃわしゃと髪を不器用に撫でてくれた。…照れ隠しのつもり、かな?

私は嬉しくなって、くいくいっと銀ちゃんに耳を近付けさせる。そして少しだけ背伸びして。背の高い彼にソフトタッチの優しいキス──。



「……っ!?」

「初デートのお礼!それじゃ、行こっか」

「お、おう。」



してやったり顔な私に、銀ちゃんは完全に面食らっている。

差し出された手を握った、温かな温もりと暖かな日溜まりの中。──歩く歩幅が違っても、必ずその先で待っていてくれる人がいるから。


私は今在るこの、

一瞬一秒が、しあわせだった。






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