嘘つき狼





真っ黒な瞳で、

真っ直ぐな瞳で、

ただ純粋に俺だけを見詰める。



「──何だヨ、姫?」

「べ、別に何でもない…っ」

「怪しすぎ」

「う、うぅ……だって神威が、その、」



少し潤んだ瞳に、俯きがちの視線。頬を赤らめたかと思えば、姫は俺の袖を引っ張って。ねえ神威、と呟いた。何処か不安げなその声に、俺はなーに?と薄ら笑いを浮かべる。



「もしかして……怒ってる?」

「──俺が?」

「うん。昨日からずっと、気難しい顔をしてるから」



…怒っている?俺が?


彼女にそう言われて、初めて気付いたのかもしれない。昨日阿武兎と姫が楽しそうに話しているのを見て、それから──。

記憶を巡らせていれば、私のせい?…ごめんね、と姫の愛らしい声が耳に届いて。そしてそれだけで許してしまえる自分が居た。



「大嫌いだよ、君なんて」



でも、ただ許すのなんて詰まらないから。俺は少しだけ眉間に皺を寄せて姫を睨む。彼女はごめん、と再び言葉を漏らした。



「他の男と話すな、って、言ったよね?嘘つきは嫌いだよ」



しかし言葉に反して、俺は姫を抱き締めた。驚いたように肩を跳ねさせる彼女をそっとそっと包み込む。優しすぎるその抱擁に、姫もそっと目を瞑って。



「大っ嫌い」


(……でも大好きなんだよ。)



ポツリと呟いてから、俺はにこりと笑った。いつものように、何事も無かったかのように。


このままだと好きすぎて可笑しくなってしまいそうだから。嘘も俺の愛情表現。敢えて逆の言葉で押さえ付けて、敢えて君を困らせて。

――そして、


困ったように笑う君を、やはり俺は好きになるのだ。






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