ふるさと桜前線





見上げれば、青空。

ゆらりふわり真っ白な雲が、織物状になって流れて行く。


舞い散るは、桜吹雪。

暖かな陽気に柔らかな風が、誘うように私を花弁で包み込む。



「わあ、綺麗……っ」



思わず、溜め息が漏れた。

こんなに綺麗な風景、私の地元では見たことが無い。

幼い頃の彼は春になると毎日この風景を見ていたのだと思えば、何だか頬が緩んでしまって。



「ねえ、トシ」

「……何だよ、ニヤニヤして」

「ニヤニヤとは失礼ね!…トシは小さい頃ってどんな餓鬼んちょだったの?」

「餓鬼んちょ、ってなァお前……んなの聞いてどうすんだ?」



そう、大して興味も無さそうに呟かれる。

隣に立つ背の高いトシを見上げるようにして仰げば、道場の向こうから子供達の楽しそうな声が聞こえて。

女の人の笑い声、沢山の足音。


──だって、私の知らないトシなんて、いて欲しくないもの……。


しかし暗く陰った私の表情にも、鈍感な貴方は気付かない。

トシは私の過去を知りたい、とは思わないのかな。



「けち。トシの馬鹿!」

「…おい、姫?何で、ん──っ」



悔しくなって少しだけ、トシの顔目掛けて頭突き……と云う名のジャンピングキッス。

しかし身長が足りなくて、巧く唇と唇を重ねる事は出来なかったけれど。


ぶわり、と舞った桜の花弁がトシの鼻の頭に付いた其の瞬間。

我に返った彼は勢い良く身を引き、真っ赤な顔で口元を押さえていた。



「な、何すんだよ…っ」

「何って、キス?……トシが悪いんだよ?私は知りたいのに、トシのこと…いっぱい。」

「姫、ちょっと待て!まだ教えねーとは言ってねェだろ、ちゃんと話してやるから」



俯く私に戸惑って、離れた距離を縮めて行く彼。

ゆったりとした動作で私を抱き締めると、ポンポンと頭を優しく撫でてくれた大きな掌。

──わたしの、愛しいひと。



「トシの生まれ育った武州は素敵だね、とっても」

「…ああ。いい所だぜ。今度の休暇は姫の方に行きてェな」

「──うん!」



そっと身体を離して、再び二人並んで大木を見上げた。


幼い頃に見た桜と、今私と共に見る桜の景色はきっと違うだろうけど。

出会う迄の二人の時間をゆっくりと縮めて行きたい、とそう思うから。






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