こっち向いてハニー





甘味屋の和席に座り、黒あんみつを頬張る。ギャーギャーと騒がしい外野に目を向けながらもその手は忙しなく動き続けた。



「あほチャイナ!何すんでィ」

「うっせーヨ、サディスト!」

「今日と言う今日は決着を付けてやらァ!」



会った途端、此れだから困るのだ。

私は悲しいような恨めしいような、妙な気持ちで彼らを眺めていた。

喧嘩するほど仲がいい、なんて言ったらきっと隊長は怒るだろう。しかし本当にそう思う。認めたくは、ないけれど。歯痒い気持ちに心が押し潰されそうだ。



「隊長、見廻り行きましょう」

「あ?何だ、もう食べたんですねィ」

「はい、だから……」

「ちょっと待って下せェ、今はチャイナと決着を、」



嫌だ、嫌だ、嫌だ。

早く、行きましょう、と私はもう一度呟くと彼の隊服の裾を引っ張った。

そう悲壮な表情を浮かべた私に隊長は凄く驚いた顔をして。あんたが急かすなんて珍しいや、と呑気に笑う。



「何でィ、嫉妬ですかィ?」

「ち、が……!」



いいや、違ってなどいない。私、本当は分かっていたんだ、



「嫉妬、なんか、何度もしてますよ…!」



ずっとずっと、伝えられなくて。だけど、ずっとずっと私の胸の中で渦巻いていた想い。

私は汚い女だ。でも隊長にだけはそう思われたくなくて、



「我慢してたんです」


今まで。そして此れからもそのつもりだったのに、


「可笑しい、ですね。耐え、られなかったの……!」



心のネジが一気に緩んだ気がして。私はぶわっと涙を溢した。幻滅された、そう思いながらも恐る恐る隊長を見やれば。



「な、んで…泣いて…!?」

「っ、嬉しいんでさァ」



──隊長も、泣いていた。

目からポロポロと零れ落ちる涙を拭いながら、私をぎゅっと抱き締めて。それから人前にも関わらず私の額にキスをする。



「姫、今まで妬いてくれなかったろィ?」


不安で、妬かせたくて、


「チャイナと絡めば、あんたも嫉妬すんじゃねェかって」



大成功でさァ、と笑みを浮かべる隊長。その胸板を小さな拳で叩き付けながら、私も声を漏らした。



「馬鹿、隊長…っ」

「ひっでーなァ、そんだけ愛してんでさァ」

「私だって愛してますよ…!」



すれ違って、また繋がって。結局私も隊長も願いはただ一つだったのだ、あなたに振り向いて欲しい。ただ、それだけ。







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