十年後も誓えますか最後の鐘の音が鳴り響き、校庭に桜が舞い散る。 ──離さないでね。 彼女がそう言った右手を俺はぎゅっと握って。緩んだ涙腺をもう一方の手の甲で押さえ付けながら、唇を噛み締めた。 「…総、悟……」 「っ…何でさァ、姫」 「あのね、別れの前に私からのお願いがある、の」 ボロボロと涙を溢しながら、繋いだ手をより強く握り締めるから。俺も姫の右手をなるべく優しく包み込み、何でィ?早く言いなせェ、と言葉を紡ぐ。 「浮気、しちゃ駄目だからね…?可愛い子がいても嫌だよ」 「分かってやすぜ、姫もな」 「うん。それから、電話してよね?総悟の声、聞きたくなっちゃうだろうから」 「気が向いたらしまさァ」 俺がわざとらしく口角を吊り上げれば、姫はもう!と頬を膨らませた。そしてやっといつものように笑うと、約束、と唇を動かしてから繋いでいた手をほどいてしまう。 「元気でね!」 「あんたも、頑張りなせェ」 「うん!離れててもずっとずっと大好きだからね…っ」 ただ純粋に俺を好きだと。 そんな彼女を俺もただ単純に、愛していて。 「その気持ち、忘れねェで下せェよ?」 「ばーか、当たり前でしょ!」 じゃあね、総悟、 「──ばいばい。」 小さくか細い声で、そう呟き。 姫は無理矢理作った笑顔で俺に笑い掛け、短いスカートをひらりと翻す。もう『また明日』ではないのだと思うと、胸が徐々に締め付けられて。堪えていた何かがぶわりと一気に込み上げてきた。 小さくなっていく彼女の背中。 さわさわと桜の花びらが視界の中で揺れたかと思うと、その刹那。此方を振り返り笑う姫の笑顔は、夕日と桜で見事に彩られていた。 (別れて初めて気付いた。) (ありふれていた今までが) (こんなにも幸せだったなんて) ←back |