二人ぼっちの世界一人きり、地球と呼ばれる地に足を付け。 まるで絵画から切り取ったような真っ青で美しい空を傘越しに感じる。 空からも祝福されているのか、だなんて何処か浮かれた自分を戒めるため、俺は一つ咳払いをした。 ふわり風が香る。 と同時に大きく瞬いた瞳の中、視界の隅に、見慣れた漆黒の髪が揺らめいて。ああ、 「…神威、お誕生おめでと?」 「──絶対に来ると思ったよ」 柔らかく優しい笑みを咲かせて、姫は俺を見上げていた。 俺の大好きな其の笑顔で、俺の大好きな甘い声で。 君だけにしか無い可愛さを湛えながら、俺の身体に手を伸ばす。 っ…ぎゅう──。 抱き締められた、ただそれだけでどうしようも無く嬉しくなった。 だって人間は、……特別な日は特別な人に祝って貰いたいもの、なんでしょ? 「姫、離してよ。もっとちゃんと、君の顔を見たい」 「あ、ごめん…つい嬉しくて!神威だって嬉しいみたいだったからさ」 「どうして分かるの?」 「じゃなきゃわざわざ誕生日に地球に来ないでしょ?」 なーんて本当は、私がいつも神威を見てるからなんだけどね! そう言って俺から離れると、やはり眩しい位の笑顔を俺に向けて。 再び俺の心臓をずどん、と撃ち抜いた彼女は卑怯だ。 「あ、そうそうプレゼント!何がいいか迷ったから…神威にリクエストして貰いたいの」 俺は一瞬だけきょとん、としてそれからまた何時ものように表情を崩した。 そして姫に笑い掛ける。 作り物なんかじゃない、俺なりに精一杯の笑顔で。 「そうだなあ。……なら此れからの"約束"が欲しいかな」 「…え、約束がプレゼント?」 「うん、そう」 ──姫が俺以外を見ないこと。 「誓ってくれる?約束だよ、姫は俺のなんだからね」 「や、約束する!ずっと私は神威の一番でいたいもん」 無邪気な彼女を見詰めて、俺はその細い腕を掴み引き寄ると、そっと指先を重ねた。 掌と掌が交わり、微熱が俺を支配する。 ──何て弱い生き物なんだ、 だけど嫌いじゃない、寧ろ愛おしくて堪らない。 きゅっと指先に力を込めると、姫の額にキスを落とす。 「プレゼントのお礼だよ」 君は俺が、守るから。 だから此れからもずっと俺の側に居て欲しくて。 ほんのりと頬を赤く染めた姫に、とても小さな声で囁いてみる。 (──君が、大好きだよ。) "約束"と云う名の不確かな言葉に不器用な想いを乗せた俺は、ただ大切な存在を、壊すまいと必死に、深く優しく包み込んだ。 ←back |