別れ話は君のため





突然、告げられた

それは残酷な一言──。



「別れよう」



私の背中に手を回したまま、土方さんは息を殺すかのように吐き捨てた。確かに温もりは感じるのに、私の脳裏をよぎるのは無情な囁きだけで。



「姫、…別れよう」

「い、嫌…っ嫌だよ……!」

「姫、俺達はもう無理だ」



二度目のその言葉はしっかりと私に刻み込まれた。別れよう、わかれよう、ワカレヨウ――。何度も何度も繰り返し再生される土方さんの声に、私は小さくかぶりを振って。

嫌だ、と震える拳で彼の身体を力無く抱き締める。そんな私の頭を撫でて、土方さんもぎゅうっと私を抱き留めた。



「嘘よ、土方さん…っ」

「嘘じゃねェ、」

「それなら、それなら──!」



それ、ならば、どうして貴方は泣きそうなの?

冷たい言葉とは裏腹に、熱の籠った土方さんの身体。泣きたいのは私の筈なのに、何故だか悲しげな瞳で私を映す。唇を強く噛み締めて、時折天を仰ぐその顔は泣きそうな程に切なくて。



「悪ィな、姫」

「いや、っ」

「愛してた」

「どうし、てっ…!」



想い想われ、愛を繋いで。

愛し愛され、刻を結んだ。


好きあっているのだから、此れからもずっと一緒に居ればいいじゃない。枯れた心を潤すように、自分に夢だと言い聞かせるように、私は土方さんを掴んで離さない。しかし彼はもう一度髪に触れると、私の手を優しくほどいた。

そしてゆっくりと唇を動かして。



「俺は死に場所を選べねェんだ。いつどこで死ぬかも分からねェ、腐った野郎さ」


だが姫は、違うじゃねェか。


「おめえは普通な野郎と普通に幸せを暮らすのが似合ってる。辛い思いは…させたくねェんだ」



完全なる、別れの言葉。しかし貴方は何時になっても優しくて、温かさが拭えない。

"普通"って何?私はそれでもいいのだと、急いで口を開きかけたが、私はそれを声にすることは出来なかった。だって私に背を向けた土方さんの肩が、小刻みに震えていたから。そのまま遠ざかる彼の背を、私は涙で辿る事しか出来なくて。


己の想いを殺して、愛を無かったものにして、ただただ、彼は私の幸せを願うのだ。






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