惚れ薬はいらない





何時でも何処でも何にでも、大した関心を持たない私の彼氏。

綺麗に透き通るような銀色を揺らして、だけど死んだような目で辺りを彷徨く。そして片手にはジャンプ、片手には苺ミルクだ。



「ねーねー、銀ちゃん!」

「………ん?」

「え、反応薄っ!」

「あー…悪ィ、今いいとこなの。後にしてくんね?」



彼女よりジャンプを取るとは。沖田さんの言う通りだ、と私は一人頷きそっと着物からピンク色の粉末を取り出して。そしてそれを、何気ない動作で苺ミルクに仕込んでやった。

ふふん、沖田さん仕込みの惚れ薬なんだからね!

頬が緩むのを必死で抑えながら、私は彼の服の裾を軽く引っ張って。



「銀ちゃん…苺ミルク早く飲んでよ!あそこにゴミ箱あるし、私捨てて来るからさ?」

「あーはいはい。んじゃ飲むわ………ん?」

「…………え?」



訝しげな目で苺ミルクを覗き込む銀ちゃんの隣から、私は黙ってその中身を盗み見た。え、バレた?

すると液体はスライムのようなピンクの固体に変わっているではないか。私は驚いて、沖田さんに渡された小瓶を出すと、そこには瞬間冷凍の四文字が。


そして私の胸元からはらり、と落ちた紙を拾い上げ、銀ちゃんは小首を傾げる。



「ふーん、惚れ薬、なァ」

「ご……ごめん、なさっ…」

「何、そんなに銀さんに構って欲しかったわけ?」



怒られる、そう思って、私は反射的に目を閉じた。しかしいつになっても罵声は飛んで来る事なく、代わりに私を呼ぶ甘い声。

恐る恐る顔を上げれば、にんまりと厭らしく笑った銀ちゃんの満面の笑み。いやあ、愛されてんな、俺……だなんて、嬉しそうに私を抱き寄せて。



「バッカヤロ!んなことしなくても、俺ァ始めっからおめェに惚れてっから。これ以上惚れさせてどーすんですかっ」

「で、でも…銀ちゃんは…」

「ジャンプはジャンプ。愛してんのは姫だけだっつってんだろコノヤロー」



耳まで真っ赤にさせたまま、私の眼前でそう言葉を紡ぐ。そんないつもと違う新鮮な銀ちゃんに、私まで思わず照れ笑いをして。抱き寄せられた身体を、更に彼に密着させた。



「大好きよ、銀ちゃん」

「あったりめーだろ、」



顔を見合わせ笑い合う。そうして重ね合わせた唇と唇に、私はいっぱいの幸せを噛み締めて。

──後で沖田さんにお礼を言わないと、ね。


無関心に冷たく見せ掛けて、実は誰よりも胸一杯に秘めた恋心。どこか掴み所のない彼だけれど、俺の中には姫しかいない、そう紡いでくれる全てが愛おしかった。






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