行き場のない衝動





いつでも可愛い笑顔を振り撒いて。誰にでも優しく接する。そして決め手は、明るく話し掛ける甘い声だ。


――惚れて、当然だよなァ。


机に突っ伏したまま、俺は姫の事をまた今日も考えていた。くだらねェ授業をまともに聞くぐらいなら、此方の方がずっと有意義だろう。



「きりーつ、礼!ありがとうございましたァ!」



学級委員長の声が響いて、俺は何をするでも無くただ運動場に視線を移した。姫は幼なじみだがクラスは違う。今は丁度体育の授業が終わった頃、か…。

騒々しくなる教室に見向きもせず、俺は其方だけを見詰めていた。ふと、目に留まるのは、



「誰だァ、あいつ…」



姫と楽しげに会話を弾ませる、男の姿。心臓がふいに、鷲掴みされたかのように疼き出す。

先程まで思い描いていた彼女の笑顔を、独占する奴が許せなくて。妙な感情が苛立って抑えられない。


俺は咄嗟に立ち上がると、柄にも無く窓から身を乗り出し、大声で叫んだ。



「姫!おい、姫っ!」

「え……、し、晋助…!?ちょ、ど…どうしたの?」



驚いたように顔を上げた姫、傍にいた男は逃げるように走り去って行く。戸惑う彼女を静止するよう睨み付け、俺は鞄を持ち走り出した。彼女のもとまでは、ほんの数秒だった。評判の悪い俺が苛立った様子で通るものだから、皆がすっと道を開いた。


俺は姫の眼前で立ち止まると、その白い肌に手を伸ばして。



「…他の奴と話してただろ?さも楽しそうに、なァ」

「あの、晋助……。」

「…あァ妬いてるよ、俺が妬いてちゃ悪ィか?姫を独占してェんだ、いけねェか?」



多分、焦っていた。

酷く、不安だった。


幼い頃から好いていた彼女を今更誰とも知らぬ輩に取られるんじゃないか、と。鋭い隻眼で訴える俺。しかし彼女は其れにさえふんわり、優しく微笑んで。



「拒否、していいんだぜ」

「する訳ないでしょ?…馬鹿な晋助」

「……うるせェ」



何もかも、心さえも包み込む、其の笑顔は日だまりだった。


姫の頬に触れた掌の力を緩めると、汗ばんだ首元にちゅう、と噛み付いて。白に映える赤い華を咲かせる。

もう一方の掌を細い腰に当てると、俺は彼女の耳元で囁いた。



「…本当に、いいんだなァ?」



クックッ、と妖しげな笑みを浮かべれば、可愛らしく顔を真っ赤に染め上げる彼女。


(――今夜は寝かせねェぜ?)






---------------

※お題元『nothing』様
http://www7b.biglobe.ne.jp/~no_nothing/





back


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -