織姫星と彦星





きらり、星が瞬いた。

満天に溢れる星を、私は一人寂しげに見詰める。綺麗な夜空、だけど隣には何も無く。ただ空気だけが存在している。



――もう、七夕ですね。

織姫と彦星は今日という日に、一年に一度だけ会う事が出来るそうです。



私はそこまで綴って筆を止めた。じわり、句点に染みが広がり大きくなっていく。私がどれだけ溜め息を吐こうが関係無い、どれだけ文に想いを馳せようが関係無い。

彼はそういう人だった。

何時だって仕事一筋、きっと今も幕府のお膝元でしきりと働いている筈だ。だけど、そんな彼を、私は……好きになってしまったから。



――星が綺麗です、だけど少し武州の空気は肌寒いです。

お元気ですか?ちゃんと近藤さんのお役にたっていますか?



一年越しの想いを得て、七夕に二人は結ばれるのよ。此れは確かミツバさんの言葉だった。私達は何時、また会えるんですか。

本当はそう綴り、伝えたかった。けれどそれは彼を困らせるだけだと知っていた。



「土方さん、…私を迎えに来てはくれないんですね」



――切ない、胸が苦しい。

空はこんなにも綺麗なのに、溢れ出る涙が止まらない。書き掛けの手紙を、ぐしゃりと丸めた。どうせ此の想いは届かないのだから。

しかし、其の刹那。足音が聞こえた、砂利を踏む、確かな足音。



「姫、居るのか……?」

「どう、してここに、…」

「お前に会いたかった」



長身で黒髪、あれ?背はまた少し伸びたみたい。懐かしい、煙草の臭いが鼻を擽る。溢れ出る、零れ落ちる、――どうしよう、凄く好きなんだ。

私の中で懐かしさが愛しさに変わった瞬間、私は彼に包み込まれていた。



「待たせた、姫」

「本当……、凄く待ちました」

「ずっと会いたくて仕方、無かったのに……遅くなっちまって、悪ィ」



土方さんは私の身体を抱き締める腕を緩ませることなく、私の手からくちゃくちゃになった文を掠め取った。これも貰っていいか、と。

それと同時に、彼の懐からどさりと落ちた何か。



「え、これって…私が今までに書いた文ですか」

「あァ。なに驚いてんだ?」

「だって……忙しくて読んでないと思いました」

「んな訳あるかよ、」



土方さんはふっと笑みを零すと、私を脇に抱えたまま、それらを丁寧に広い集めて。俺の宝だぜ、と大袈裟に言った。

――ねえ、嬉しくて仕方ない。

私は土方さんの広い胸板にしがみつく。そして、ゆっくり息を吐き出した。



「会えなかった分、ちゃんと抱き締めて欲しいです……」



ほんの少しの湿り気と肌寒さ、それから目一杯の人の温もり。どくん、と脈打つ鼓動が心地良くて熱くなる頬。


(ほら、また一つ星が瞬いた。)






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