君が名前を呼ぶ限り、ある日突然お前を呼び出して。 ある日突然彼氏になった。 何も分からないお前に、好きだと告げた。この気持ちが恋だと気付いてしまった。 ――悪い、やっぱり俺は。お前が忘れられないまま…。 「銀時、てめェ…何時までそうしている気だ?そんな所で待っていたって、」 「分かってる。…あいつは、来ない」 「……分かってんじゃねーか。ならさっさと中に入んなァ、身体冷えるぜ」 戦争は終結する、俺達人間の敗北によって。だが、そんな事はもとよりどうだっていい。 俺の脳を占有するのは先生の眼差しと姫の笑顔だけだった。今も昔も、変わらぬまま。ただそれだけが生きる糧で。 「高杉ィ…」 「あぁ?」 「お前は、これからどーすんの。帰る場所もねーし」 俺が獣の瞳にそう問えば、彼はふっと鼻で笑い。さあな、と振り返りもせずに答えた。 俺は苦笑すると、くすんでしまった銀の髪に手を当てる。そう言えば、姫は俺の髪でよく遊んでたっけ。ふわふわして気持ちいーって。 「俺ァ姫に、会いてーな」 戦を理由に、あいつを置いてきたのも振ったのも。紛れもない俺だけれど。俺には姫が今どこで何をしているかさえ分からない。ただ、叶うならもう一度会いたかった。 「クク…そりゃてめェの我が儘だろ?もう、姫の好きにさせてやんなァ」 「…うるせェよ、馬鹿杉」 俺はさっと踵を返すと、小屋とは逆の方へ走り出した。高杉には先に戻ってろと告げて。 冷たい風が頬を撫でる。高い木に寄り添い夜空を見上げれば、満天の星が輝いていて。こんなに綺麗な空が見えるなら、いっそのことここで寝てしまうのも悪くないと思った。 「んな事したら、あいつに怒鳴られそうだけどなァ」 ふっと、笑みを零す。 こんな時でさえあいつの顔が頭から離れなくて。思い浮かべては、愛しくなる。切なくなる。抱き締めたくて堪らないのに、俺の隣には人斬りの道具しか無い。 ――姫、 ……名前を呼べば、気付いてくれる。そんな気がした。 「っ、馬鹿なのはどっちだ」 俺はチッと言葉を吐き捨てた。冷え切った身体に冷たい刀身を抱え、そっと瞳を閉じる。 (嗚呼あいつの居ない世界が、こんなにも肌寒いなんて――) 穏やかな朝、瞳を開ければ。 俺の身体を鮮やかな着物が包み込んでいる。暖かな陽の光を受けた其れは、とても懐かしい匂いがして。いつの間にか辺り一面には美しい朝顔が咲き乱れていた。(まるで、それは、) 点々と地面に伸びる足跡を目で追うと、其れは木を挟んだ俺の背中で止まっていて――。 「“ ”」 ←back |