消えないキズナ辺りは夕闇に包まれて。 じめっとした初夏の蒸し暑さのせいで、制服が肌にぺたりと張り付く嫌な感じ。 街灯に照らされた黒髪の彼女を見据えれば、にこり、姫は優しく微笑んだ。 「総悟、今帰り?」 「そーいうあんたも、こんな時間に帰んのかィ?」 「委員会だったの。総悟はどうせどっかで寝てたんでしょ」 完全にお見通しって訳だ。 俺は鼻を鳴らすと、当たり前のように姫の手を握った。 出会ったら一緒に帰るのが、いつしか普通になっていた俺たち。 彼女の手は年を重ねるに連れ白く細くなり、顔立ちも大人になった。 ――俺から見てもすげー可愛いと思う。 「ジロジロ見ないでよ、」 「うるせー。彼氏が彼女に見惚れてちゃ悪ィんですかィ」 「…っばか!ついこの間までツンケン小僧だったくせに」 姫はいーっと歯を剥き出しにして、俺から逃げるかのように掌を離しすり抜けて行く。 あんたは生意気になりやした、と憎まれ口を叩けば、少し先を行った彼女が振り向きお互い様だと笑った。 長い、髪が揺れる。 初めて会った時から随分長くなったな、なんて。 「…ったく、時が経つのは早いもんでさァ……」 嬉しいのか寂しいのか、何とも取れぬ声音で呟けば、姫は緩やかに足を止めた。 離れていた距離が段々と近付く。 生温い風が吹き抜け、右手を振り向けば廃虚と化した公園。 「ねえ総悟。ここ、よく遊んだのにね!潰れちゃうんだ…」 「あん時はまだ、只の幼なじみだったんですよねィ」 「ふふっ、そうだね」 今はちゃんと結ばれている。 いつ切り離されるか分からなかった関係を脱して、俺と姫は、ちゃんと結ばれている。 あんたは俺の自慢の恋人に、なったんでさァ――。 ふと、其の白く綺麗な指を絡め取り、柔らかな香りのする髪に顔を寄せた。 後ろから抱き包み込むと、トクントクンと姫の鼓動が伝わって来る。 「俺達の関係は絶対に、消えさせやしやせんぜ」 「…うん、」 「つーか今思えば、出会った時から俺ァあんた以外の女に興味なかったんだよねィ」 暗がりの中、重なる影。 星がひとつふたつと顔を出し、俺と彼女に笑みを誘う。 (姫はずっと俺の隣にいなきゃ駄目なんでさァ) (じゃあ総悟君が守ってね) ((…約束!)) 幼き日の約束が、今も此からも守られ続ける事を祈って。 「…なァ姫……愛してるぜ」 (俺はずっと、あんたを大切にし続けまさァ) ←back |