夕闇に煌めく





「――誕生日?俺の?」



暖かな風に包まれながら、夕暮れの坂をツナと下る。


ふと当たり前の事を口にしたつもりだったのに、ツナはあまりにもきょとんとした顔で。

少し上擦った声は、驚きと意外性を含めていた。

そんな彼の様子に、思わず私の方が素っ頓狂な声を上げてしまう。



「へっ?ツナ…自分の誕生日も忘れてたの?」

「え、いや、覚えてたよ!?そうじゃなくって、」

「違うなら…あ、私からお祝いされたのがそんなに意外だったの?」

「いや…あの……」



ひどーい、と口を尖らせれば慌てふためいてごめんと謝るツナ。

その姿が何だか小動物みたいで面白かった。


許してあげてもいいよ、そう言いながらクスクスと笑えば、ツナは決まり悪そうに頭を掻いて少しだけ、苦笑した。



「ほら、俺。今までまともに家族以外から祝って貰ったこと、無かったから…」


――ビックリで、嬉しくて。



恥ずかしそうに頬を染めて、ツナは私から目を逸らす。

俯いた彼の横顔を眺めれば、耳元がほんのりと朱に染まっているのが分かった。



「ねえ、ツナ…」

「あ、ごめん…!情けないよな、俺。姫にこんな事言うつもりはなかったんだけどッ」

「いーの。…ねっ、何か欲しい物ある?私から、ツナに、プレゼントしたいの」



にこり、私は顔を綻ばせた。


リボーンが来てからというもの、ツナの周りには人が溢れてるから…。

別に、私じゃなくてもいいのかもしれない。

けれど、今、ツナのこんな表情を見ていられるのは私だけで。

その事実が、何とも言い表せないぐらいに嬉しかった――。



「…何でもいいの?」

「勿論!私に出来ることなら、ツナに日頃のお礼したいし」

「そっか……なら俺、…姫が、欲しいな」

「あーうん、分かった…って、ん?わ、ワタシ!??」



こくりこくり、そう深く頷くツナの顔はとても冗談を言う時のそれじゃなくて。

――至極真剣な瞳で、真っ直ぐに私の瞳を捉えた。


やがて脳が覚醒する。

目尻に熱が籠もり、身体も急激に火照って来た。

まさか、そんな…!




「姫と、一緒にいたいんだ」


――やっぱり駄目かな…?


「俺、姫に惚れてるんだと思う。だから、誰よりも近くに居て…欲しいんだ」




久し振りに見た、ツナの真剣な顔。

それが格好良いだなんて、今更知った事じゃない。


ずっとずっと好きだったんだから……!


私は唇を噛み締めると、ツナに勢い良く抱き付いた。



「わあ!?」

「いる!ずっとツナの隣に、居るから…!私もツナが、好きなの…っ」



頬を涙が伝い落ちる、はらりはらりと。

一滴、また一滴、落ちる度に私はツナの胸元に顔を埋めて、ツナは私を抱き寄せた。


抱き締め返してくれたその両腕は、温かく。

きらり上空で小さく瞬いた星を余所に、夕日は優しく穏やかに私を包み込んでくれていた――。






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