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「はいはい、万事屋銀ちゃんでーす。こんな朝っぱらから誰ですかコノヤロー」

「あ、銀さん、やっと起きたんですね!ていうかもうお昼なんですけど……」

「なに?おたくどちら様?」

「え、新八ですけど」

「え、誰だよそれ。んじゃ、依頼じゃねーんなら切るわ」

「ちょっとぉおおぉお!?絶対分かってるねェ、ねェ!??」



電話の相手は、至極どーでもいいヤツだった。俺は電話越しで逆上しているはた迷惑かつ不愉快な騒音に小さく舌打ちをする。するとまたその声は大きくなった。

ったく、ふざけてんのはどっちだバカヤロー。折角のシリアスパート返せってんだ。



「昨晩の夫の浮気調査の疲れだろうって、こっちが気遣って起こさないでいてあげたっていうのに……」

「あー、うん、そう言えば頭痛ェかも」

「そりゃ、依頼主の愚痴に付き合って酔いつぶれたからでしょう」

「あんな酒飲みな女だって知ってたら飲まなかったっつーの。――つーか神楽は?」

「神楽ちゃんなら、定春の散歩ついでに情報収集するって、朝早くに出て行きましたけど」

「……ふーん。」



気の抜けた返事をしつつ、俺は大きな欠伸をした。そしてそう言えば、と昨晩の出来事を思い返した。ああ。依頼主の般若を思わせる形相が脳裏を過ぎり、女の嫉妬心ほど怖いものはねーわなァ、と小さく身震いをする。

その点、姫は純真無垢、純情可憐、そんな澄んだ言葉の似合う女の子だった。



「買い物を済ませたら、そっちに向かうんで。それまでに顔洗っといて下さいよ?」

「余計なお世話ですぅ。お前は俺の母ちゃんか!」



叫びついでにガチャン、と勢い良く受話器を置いて、俺はうーんと両腕を上げながら伸びをした。慣れない場所で寝ていたせいか、背中がボキボキと悲鳴をあげる。


再び静かになった室内、そんな中で活気付いたざわめきが外から漏れ聞こえて来る。



――おやすみ、



何故だろう。姫の最期がふと思い出されて、俺はぶんぶん首を左右に振った。

今日はやけに彼女のことが胸に引っかかると、何となく気付いてはいたのだが。理由は分からない。ただ、彼女が恋しいと、何度も何度も心が訴え掛けて来る。……どうしたものか。俺はごしごしと目許を擦すると、木刀を手にし、それを空中でくるくると回しながら弄んだ。


そりゃ、会えるものなら、会いたいさ。


俺は視界にちらつく幻に向けて、ニヤリと笑った。



「あ、分かった。ぶっちゃけ寂しくて、お前も銀さんに会いたくて仕方ねーんだろ?」



姫を映した幻影は、俺の問いには答えない。

その代わり、ふわりと柔らかく笑ったかと思うと、細く白い指を持ち上げて。指先が窓の向こうを指し示す。そして目を細めながら、唇を薄く開いた。


ぱくぱくと空気が揺れ動く。不自然に動く唇。けれど声として実らなかったそれも、俺にはしっかりと伝わっていた。



――…ゆきがきれいだよ。






》to be continue..




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