哀染初雪(remake)@





病室の窓から覗く景色は、驚くほどにとても綺麗で。私の視界を覆い尽くす、白銀に彩られた世界。淡く清純な雪がはらはらと降り積もり、陽光を浴びたそれらがキラキラと瞬き輝いて見えた。

私は思わず、ほう、と溜め息を吐いた。大好きな彼によく似た色彩だと、ただそれだけで心がふんわりと穏やかになる。



――そうだ、これが今年初めて降る、初雪だった―――。





「ねえ、銀ちゃん、」

「んー?」

「外、見て。雪が綺麗だよ」

「あァ、朝から降ってたしな。ほら、もう大分積もってんじゃねーの」

「もっと積もればいいなあ」

「明日のお楽しみだな。それより……寒くねーか?」



銀ちゃんがあまりに心配気な眼差しを向けるから、私は思わず笑みを零し。それからふるふると小さく首を左右に振った。

そして心地良い静けさに耳を傾ければ、どこからか、幼い子供達の賑やかな笑い声が聞こえて来て。



「一年前の私達もああやってはしゃぎ合ってたよね」



しんと静まり返った室内で、私はふと思い出したかのように、ゆっくりと口を開いた。その唇は形良く緩やかな弧を描きながら、一音一音を慈しむように吐き出した。しかし私の瞳はどこか寂しく、悲哀の色を湛えていて。



「そうだな」



そんな私の髪を、銀ちゃんは優しく撫でてくれる。ああ過去を思い出しているのか、なんて、決して彼に心配させたい訳ではない。けれど上手く言葉にすることが出来ず、私は口元を緩める仕草をするばかりだった。

そして彼はそれを急かすでも無く、ただひたすらに無言で、私をじっと見詰めてくれている。柔らかなその眼差しが、私の心をほだして行く。


――また、さ?

ぽつり、零れた吐息。



「また……あの頃みたいに、二人でふざけて、笑って…、そんな毎日に戻れるかな?」



―――二人で手を繋いで、雪の中を歩けるのかな?



喉を突いて出たそれは多分、無意識の内の問い掛けだった。叶わないと、知っている。けれど願わずには居られない、幾多の望みを託した願いたち。


そして私はゆるりと微笑みを作った。ちゃんと、笑えていただろうか。力無かったかもしれないと少しの後悔を抱きながら、そっと、布団から手を出すと銀ちゃんの前へとそれを伸ばした。

言わずとも伝わること。銀ちゃんが私の手のひらを大切そうに握り返して。もう冷たくなった手のひらが、彼の優しさと温もりだけに包み込まれ、深い深い愛情によって支配され行く。



「あったかいなあ」

「……姫、」

「だって、銀ちゃんの手、凄く凄く温かい」



私が顔を綻ばせた、と同時に、銀ちゃんが仄かに笑った気がした。そりゃ良かったと息を吐き出して、――笑った、気がした。

たったそれだけのことでじわりと胸に染み入る感情。どうしてだろう。悲しくもないのに視界が揺らぐ。笑った顔をよく見たいのに、瞳に焼き付けたいのに、そう思えば思うほど銀ちゃんはふにゃりとぼやけて滲んで行った。






》to be continue..



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