誓い合うその日まで





好きなものは、言える内に好きと伝えて置くこと。――これは私が過去の恋愛から学んだことだ。大体、告白された時点からスタートする私の恋は、相手の言葉によって終わりを告げられて来た。


皆、口を揃えて言うのだ。お前は本当に俺が好きなのか?俺だけがお前を好きで辛い、と。


確かに始まりは向こうであったけれど、それでも私は確実に惹かれて行っていた。どんどん好きになっていた。好きかと問われれば、大きく頷ける位には。

しかし自分でも苦しく思う、たった二文字が言えないのだ。好きだったから、大切だと思っていたから、口を吐いて出るのは吐息。言葉にならない声。そんな自分が情けなくて、けれど恥ずかしくて。――もういい、そう告げられた後、涙は簡単に零れ落ちるのに。




「おーい、姫ェ。なァに、ぼーっとしてんでさァ」

「え、あっ、ごめん」

「謝んなって。でも今は俺とのデート中な。だから俺だけを見てなせェ」

「……っ、」



私が十年掛けて言う言葉を、さらりと言ってのける総悟が恨めしい。冗談めいた口調で笑う総悟。けれどそれに莫迦みたいにときめいている私は、相当彼に惚れ込んでいるのだと思う。

かあ、と頬が熱く火照るのが分かった。総悟の素直さには本当に心臓が幾つあっても足りないから困る。真っ赤に熟れた顔を見られたくなくて、ぷいっとそっぽを向けば。彼の手のひらが私の頬に触れて、瞬間、眼と眼がばっちり合ってしまう。



「やりいっ!」

「な、なに…?」

「ズバリ。今のアンタは俺のことで頭いっぱいでしょう?」

「あ……っ」



図星だった。私は立ち尽くしたまま、けれど視線だけはふらふらと彼方此方に漂わせて。総悟は嬉しそうに、悪戯っぽくにやりと笑む。大きな瞳を細めて笑う、その顔が好きだった。


――特別だと、そう思う。


今まで何度か恋愛をして来て、こんなにも誰かを意識したことなど無かった。自分の中で膨張するみたいに特別な想いが高まって行く。やがて弾けてしまったらどうなるのだろう、と不安になったりもしたけれど。総悟は悪態を付きながら、散らばった私の想いをひとつひとつ、丁寧に拾ってくれるだろうとそう確信していた。

総悟の言葉は、いつも真っ直ぐで。時々屈折していても、やっぱり線は何時だって真っ直ぐで。偽りのない彼だから、信じられた。偽らない私で居られた。自分の気持ちに正直に、――総悟を愛する、私で居られた。



「なーんか……、こういうのって、幸せでさァ」

「え?」

「好きなヤツとの休日デート。まァこれから先もずっとアンタとするんだろうけど」

「そ、総悟……」

「なっ、姫もそう思うだろィ?」



私は頷き掛けてはっとした。言うなら今しかないと直感したのだ。こんなにも好きなのに、こんなにも愛されているのに、付き合い始めてから、まだ一度も私からは伝えていない。

総悟との恋は絶対に終わらせたくないと。総悟を不安にさせることはしたくないと。そんな想いだけは強かったから、私は震える唇を開いた。

ぱくぱくと、開いて閉じてを繰り返す私を、総悟は不思議そうに眺めている。落ち着いて、息を吸って。そうして、私は喉元から感情を絞り出すように、呻いた。



「――す、」

「す?」

「す……、」



あわあわと独りで勝手にじたばたしている私の髪を、総悟が乱暴に撫でて来る。私は思わず息が詰まって、き、を呑み込んでしまった。しまった、と。目を見開く私の隣で、総悟が私の指先を取り、所謂恋人繋ぎ。



「大丈夫でさァ」



ちゃんと分かっているから、と太陽のように笑う、甘栗色の髪はキラキラと反射して輝く。



「それに。そんな顔してると、キスしたくなるんで」



絡まり合った指先とは逆の、もう一方の指先で総悟は私の唇をぎゅむう、と押し付けた。反論しようとすれば、瞳に映る総悟の表情が、あまりにも、優しくて――。

脳内が沸騰して、何も考えられなくなる。太陽の熱と総悟の熱と私の熱がごちゃ混ぜになり全て襲い掛かって来て、くらくらと眩暈がした。



「んな焦んなくても、その内、イヤでも言わなきゃなんねー時が来るんでねィ」

「たとえば……?」

「結婚式、とか?」



どきっとして、それから泣きたくなる程に愛おしくなって。私はその言葉に応えるように、節くれだった硬い手のひらを強く握り返した。すると意地を張り合うみたいに更に強く強く握り返されて。


お世辞にも綺麗とは言えないその手のひらが誰よりも美しいことを、私だけが知っている。






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