君は君らしく愛されろ





細かいことは気にしたら負けなのだと思います。どうして銀ちゃんが他の子から貰ったチョコを食べているのか、とか。どうしてそれを私の前でするのか、とか。どうして私にはチョコを強請らないのか、とか。銀ちゃんは全く気にしていないようなので、私も深く気にしていてはダメなのだと思います。


抗わず、逆らわず、自然のままを受け入れる―――それが賢い恋愛の付き合い方なのです。



「なんて、大人ぶってみました」

「……はい?」

「いえ、独り言ですよ。これ、どうぞ」

「あ、ありがとう。――って、チョコレートじゃん」

「銀ちゃんのは、三割増しに甘くなっていますよ」



甘党なあなたに好かれたくて、ただその一心で。

私も甘い物は大好きだけれど、正直もう見たくないと思う。何故かって、何度も何度も作り直して、胸焼けするほど試食したから。けれどまだ足りなくて、本当はもっと完成に近付けたかったのだけれど。惜しむらくはタイムオーバー。仕方無く、九回目のチョコを銀ちゃんにあげた。あ、縁起悪い、なんて。渡す数秒前に気付いたこと。



「銀ちゃんのは、って……他の奴にも作ったってこと?」

「はい、お世話になった方々にも分けました」

「ふーん、で、……具体的には誰よ?」

「神楽ちゃんとか、お妙ちゃんとか……、あと、九兵衛にもあげましたよ」

「そう?それならいいんだけどね」



ねえ銀ちゃん、何がそれならいいんですか。私は全然良くないんですよ、なんて。嫉妬めいた発言は嫌われるのを恐れた喉がごくり、呑み込んだ。

沖田さんや土方さんにもあげました、と言ったら、彼はどうしていたのだろう。果たして妬いてくれたのだろうか。いや、馬鹿なことを考えるのは止めよう。私は寂しく思いながらも睫毛をそっと伏せた。

そして一瞬にしてパッと表情を変えると、明るく微笑んでみせる。少しでも愛らしいと思ってくれたならば、それで充分だから。



「銀ちゃん、どうです?嬉しいですか?」

「当ったり前だろ!ひょっとして、姫から貰えねーんじゃねーかと思ってたし」

「そんな訳、ないじゃないですか。銀ちゃんが甘いもの大好きなの、分かってますから」



気を引きたかったんです、と内心で付け足して、私は銀ちゃんに柔らかく抱き付いた。

恋人と同居人の違いって何だろう、とふと考える。私は恋人だから銀ちゃんと一緒に住んでいる、そう思っているのは私だけなのだろうか。けれど付き合って、と言ったのは彼の方で―――何時の間にか抜け出せない程惚れていたのは、私の方で。


曖昧なバランスに目眩がした。しかし緩やかな仕草で優しく抱き留め返してくれた、その事実だけで、ぽっかり空いた穴は埋まって行く。我ながら、何て単純な女だろう。



「これ、手作り?……本命、ってことだよね?」

「あ、……美味しくないかもしれませんが」

「旨いに決まってんだろ、バカ」



にかりと笑った銀ちゃんの顔を仰ぎ見て、きゅうんと胸が縮こまった。


――あれ、そう言えば。先ほど、貰ったチョコを食べていた彼に美味しい?と聞いた気がする。すると彼は、まあまあ、なんて何とも言えぬ表情で呟いていた。

――あれ、可笑しいな。笑ってくれた。私なんかが作ったそれよりも美味しそうなチョコが並ぶ中で、私のそれだけを、嬉しそうに見てくれた。


他人とは明らかに違う、その眼差し。



「どう、して……?」



溢れ出た涙の理由を、私は知らない。固めていた笑顔の層が一気に剥がれ落ちて、感情が剥き出しになった。

悲しい訳じゃ、ないのに。何だか飛んでも無いことに気付いた気がするのだ。――お前のは、特別なんだよ。銀ちゃんがそう囁いてくれた、気がして。

どうしたらいいのかなんて、もう分からない。銀ちゃんが好きです。ただひたすらに、銀ちゃんのことが、好きで好きで堪らないのです。もし、銀ちゃんも私と同じ気持ちで居てくれたのならば―――。



「な、なに?ちょ、え、俺が泣かせたの!?」



突然のことに焦り出した彼の服の背をくしゃり、と掴んで。



「銀ちゃ、…す…き……」



私は思いの丈を零した。銀ちゃんに釣り合うように大人な私で居ようと決めていた。けれどその全てを崩して、彼に伝える。ただ、私の本心を、知って欲しくて。

銀ちゃんは一瞬だけ切ない表情をして、それから私を力一杯に抱き締めてくれた。



「…悪ィ……銀さん、大人気なさすぎたわ」

「え?」

「姫がチョコくれんのか不安になって、それから……お前に酷なことしちまった」

「……銀ちゃ、」

「どーしても、お前からのが欲しかったんだよ――」



ふわりと離れて行く体温を惜しむように眺めていると、銀ちゃんは幸せそうに微笑んで。ちゅ、と鼻先に落とされた口付けは、仄かにときめきの香りがした。






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