恋する魔法





好き、という魔法の言葉。

あなたにそう言って貰えるだけで、それは私の自信へと変わって。もっと可愛くなりたい、もっと好かれる自分でありたい、そう思うこともあるわけで。頑張ろうとする気持ちを後押ししてくれる。


全てはあなたの為に――。




「なーんかさァ」

「どうしたの?ふてくされた顔しちゃって」

「いや、最近さ」

「ん?なーに?」

「んー……やっぱり、ますます可愛くなってね、お前?」

「………え、」



ふいに真顔でそんな事を言うものだから、私はついポカンとしてしまった。真顔、とは言えども、締まりの無い表情ではあるが。下がり切っている目尻は、邪な感情を抱いている者のそれとは違い、本当にやる気がないだけの、それ。

何時も通りの銀時の表情だったけれど、んーんー、と幾らか唸っている様は珍しかった。



「もう、急にどうしたのよ、何かのドッキリ?」

「違いますぅ。本気でそう思ったから言ってんだろ」

「……私、可愛くなった?」

「あーうん。そう、やっぱり何か変わったんだよな」



銀時は私の顔をまじまじと見詰めた後、するりと頬を撫でた。あれ肌もモチモチしてる、と少しだけ目を丸くして、驚きの声をあげる。

顎を取られ、色付いた唇を指で弄ばれた後、そのままちゅう、と軽い口付けをされた。そしてここでもまた一言、銀時は柔らけェ、と呟いた。


私は釈然としない表情のままでいる彼の胸元に飛び込むと、きゅっと背中に腕を回した。何時ものことに、銀時も堅くなっていた表情筋を緩めると、柔らかに微笑みながら受け止めてくれた。

大きな胸に耳を当てると、とくんとくん、と聞こえてくる彼の心音が好きだった。どんな言葉よりも私の心を鎮め、穏やかな気持ちに和らげてくれる。



「……多分、銀時に恋したからじゃない?」

「え」

「私が変わった理由、それしかないかなあって」

「え、え?オレ?」

「そう。銀時のおかげ」



陰ながら努力はして来たつもりだ。付き合い始める前は、銀時に振り向いて欲しくて。付き合い始めた今は、もっと好きになって欲しくて。

可愛くなりたいと願うのは恋をしている証拠よ――、妙ちゃんの言葉が脳裏に蘇る。私は銀時に出逢って恋をして、少しずつ少しずつ変わり始めたのだ。


大嫌いだった自分を、大好きなあなたが好きだと言ってくれる――。それは世界が根底から変わった瞬間だった、天地がひっくり返る程の衝撃だった。本当に嬉しくて嬉しくて。銀時に好かれるように生まれてくれたワタシに心から感謝した。


銀時は私の背中をさすりながら、ふーんだとか、へーだとか、微妙な効果音を発している。そして私の顔を上から眺めては、額やら鼻の頭やら頬やら、兎に角思い付いた所全てに短く優しいキスを落としてきた。



「……なーんか複雑な気分」

「こんなにキスしといて何言ってるの」

「えー…だってなァ……。姫の一番いい所は、性格だと思うんだけど。勿論顔もひっくるめて全部俺の好みである訳で。当然姫自体がどんどん可愛くなって行くのは銀さんとしてもね、見てて嬉しいですよ?ああ可愛いなァとか思って、鼻の下伸びちゃったりするよ?けどさァ、」

「長いっ。――つまり?」

「あらぬ野郎に嫉妬してんだよ、……笑いたきゃ、笑え」



銀時は口を尖らせて、そっぽを向いた。



「別に、いいだろ。これ以上可愛くなられたら、変な虫がくっついてくんじゃねーのって、余計に心配になるくらい」



その両頬にはほんのりと赤みが差して、彼の気持ちに釣られてか、聞こえる心音も走り出していた。


なにそれ――、小さく零した私の言葉は届いていただろうか。じんわりと胸に染み入る感情はとても声に乗せることなんて出来なくて。ああ銀時が好きだ、と。ただその想いだけが胸中で膨らんで行く。

顔が熱くなって行くのが自分でもよく分かった。銀時とお揃いだなあ、なんて暢気に笑うけれど、火照ったそれを鎮めることは当分出来そうにない。



「え、なんで。お前も顔、真っ赤なんだけど、」

「ぎ、銀時が変なこと言うから……!」

「好きなんだからしょーがねェだろ!」

「わ、わたしだって!」



銀時が思っている以上に、あなたのことが好きなのだ――。


ぶわあと顔を耳まで赤くして、言葉の代わりに、彼の身体にキツく抱き付いた。ぎゅうっと胸に顔を埋める、そんな私の髪を、銀時は乱暴に撫でて。

互いに言葉は交わさなかったけれど、ああ想うことは一緒なのだと。触れ合う温もりが私にそっと囁いた。






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