あなたの隣で永遠に





「もう、返事しなさいよ」



沈黙を守ろうと云うのか、いつまで経っても口を開かない彼を私は睨み付けた。……全く、沖田には困ったものだ。子供じゃないんだからと小さく溜め息を吐くが、やはり彼は無言で。

このままでは途方もない気がして私が先に折れてやることにした。折角の雪景色も喧嘩をしたままじゃ台無しだろう。



「意地っ張りなんだから」



ぷくうっと真っ赤な頬を膨らませ、沖田の隣に腰を降ろす。するとそこは見た目以上に冷たくて思わず飛び上がりそうになった。何でもない顔をして居座る沖田が信じられない。

驚いた顔をして彼を見れば、ほんの少しだけ口角を上げて此方を見ている。それはどこかぎこちなくて可笑しかったけれど。沖田なりの、精一杯の優しい微笑み、なのだと思う。


そんな余りにも不器用な彼を見れば。唐突に胸の奥底から愛おしさが込み上げて来て、私を満たしてゆく。



「ねえ、おきた」



はああ、冷たく悴んだ指先に熱い息を吹きかけて、呼び掛けた。



「綺麗な雪だね」



こういうのをホワイトクリスマスって言うのかな、ロマンチックだよね。鼻を啜りながら、照れ臭そうに笑ってみせる。沖田はやはり微笑みを絶やさないままで、だから私はそんな彼の指に自分の指を絡めた。

沖田も手、冷たいなあ。温め合おうよ、私がそれをぎゅっと握り締めれば。――手と手が繋がる、沖田の肌に触れて、沖田を感じて。

刹那、大きな瞳から涙が溢れ出した。目尻から頬を伝って、雫に変わる。沖田が好きだ。ああ嬉しいに違いない。こんなにも、こんなにも、彼を愛せて、彼に愛されて。



「……私、世界で一番の幸せ者なのかもしれないね」



何時からか、沖田と過ごす日々が私の全てになっていて。思い返せば、大切な思い出には必ず沖田がいて。心の拠り所、だったのかもしれない。笑って泣いて怒って、笑って。何もかも沖田と共有してきた。


沖田が、だいすきだ。


私のこと好き?なんて、直接聞いたことはなかったけれど。きっと彼も同じ気持ちだ。私に触れる仕草も表情も、優しくて。呼び掛ける声音は、甘く。時には死に物狂いで守り抜いてくれて――、全身全霊で発せられるメッセージを履き違える筈なんてないだろう。


私は、しあわせものだ。


流れ落ちる雫と、舞い降りる雪が混ざり合って、滑らかに伝い落ちた。それでも、地面に積もった雪は溶けはしない。



「――私のこと、好き?」



初めて聞いたね、なんて顔をくしゃくしゃにして笑ってみせた。けれど返事を面と向かって聞くのは照れ臭いから、顔を俯かせて。


――視界に映るのは、真っ白な地面に描かれたたった二文字。


気付いていたよ、最初からなんて。私は苦笑いして。けれど、ね。それでも。



「ちゃんと、声に出して言ってくれなきゃ…っ分かんないよ……っ」



真白の上に滲み広がる朱色。雪に埋もれ行く沖田の身体。何が故の涙か。全てすべて、気付いていた、分かっていた。

最期まで私を守り抜いて、私を想ってくれた、最愛のひと。



「…っ、沖田ァ………ッ」



すきの文字が、雪に惑い隠され、消えてゆく。けれど私の胸に秘められた、すきの気持ちは消えることなどなくて。

しんしんと雪のように降り積もって、降り積もって、そして溢れ出してしまったら――、一体誰が受け止めてくれるのだろう。


もう、沖田はいない。


たったひとつだけ願うこと。それはどれだけ祈っても、一生叶うことはない。沖田に救われたこの命を、ただひたすらに生きていく。そうすれば何時かきっと、再び逢えるだろうか。



――ただひたすらにあなたを信じ、あなたを愛し続けると。

そう誓った私は沖田のように強くはなれなくて。脆弱で、ちっぽけな独りのひとだった。





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