寂しさに恋い焦がれて





「兎はね、寂しいと死んじゃうんだよ」



唐突に、そう告げられた。


出張から帰って来た俺を迎えてくれた、久しく会っていなかった彼女の開口一番の言葉が、これだった。


そうか、寂しい思いをさせてしまっていたのか。何しろ二週間も会えなかったのだ。毎日のように会っていた二人だからこそ、たったの二週間が長く感じられたのかもしれない。


俺の胸には申し訳なさと愛おしさが込み上げて来た。俺に会えなくて死ぬほど寂しかった、なんて。可愛い過ぎて仕方ないじゃないか。



「気を付けてね?」

「ああ、悪かったな…。だが今日からはまた毎日会えるぜ」



俺はどれだけ仕事が忙しかろうと、彼女とのコミュニケーションを欠かしたことはなかった。ほんの少しの合間を縫っては、必ず想い人に気を配るようにしていた。

それらは機嫌を損ねないように、ではなく、ただ単純に俺が会いたいと思うからだ。兎に角姫は自慢の恋人だった。



「にしても、今日はやけに素直なんだな。いつもだったら、んなこと言わねェのに」



俺はきゅっ、と二週間ぶりに彼女を抱き寄せた。どこか甘く優しい香りがふんわりと漂って、ああ姫だ、と満足げに口許を緩める。温かかった、何よりも心が。知らず知らず求めていたのだ、彼女の温もりを。

安らぎとはこういうことか。妙に胸が静まり返って、心臓だけがとくんとくんと息をする。


しかし心地良い静寂は、彼女の声によって破られた。



「違うよ、土方さん」

「違う?」

「うん、違うの」

「何が、だ?」



彼女を抱き締めながらも、俺は顔を顰める。その様を彼女は面白おかしそうに眺めて、小さな唇をゆるりと歪め、笑んだ。

そして俺の眉間にぴとりと指先をあてがう。



「差し詰め私は、大好きな人の帰りを待つ犬ってところ」

「お前が、……犬?」

「そう。だから、違うのよ」

「や、話が全く把握できねェんだが」



困惑する俺に、彼女はもったいぶっていた。くすりくすりと忍び笑いを漏らして、俺の反応を明らかに楽しんでいる。


指先を眉間から離すと、少し背伸びをして、彼女は俺にキスをねだった。否、先に唇を塞いでしまおうと動いたのは俺の方だった。

そしてどちらからともなく、交わされた、それ。



「だからね、土方さん」

「、ん?」

「本当の兎さんは、あなたでしょう?」



ふいに紡がれた言葉に驚き、一瞬だけ目を見開いてみせて。そんな訳ねェだろ、と口を開きかけたが、しかし次の瞬間には消え失せてしまった。


彼女に触れたのは久し振りで。閉じられた瞳、微かに震える睫毛、薄く朱を帯びた頬、そして繋がり合った唇。見れば見るほどにその全てが俺を魅了し、胸は高鳴った。愛しくて、愛しくて、ずっと――恋しくて。



「……そうなのかも、しれねェ、な」



どうやら自分でも気付かなかった俺の本心を、彼女は見透いていたようだった。

本当に寂しくて恋しくて仕方無かったのは、俺の方だったのだ。彼女に会えない間、ずっと、会いたかったのだ。ずっと、想っていたのだ。


俺は彼女の唇を貪り続ける。彼女はそんな俺に笑って応え続けてくれた。





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