貴方を想う、すき





すきすきすきすき。

好きなんだよ、物凄く。


とてつもなく大きな、それでいて漠然としたこの気持ちを、何と言い表せばあなたに伝わりますか。



「ねえ、銀ちゃん、」



伝えたいことは山ほどある。あなたのどこがいいとか、どこに惚れただとか。しかしどれも上手くあなたに伝えることが出来なかった。どうしてだろ。好き、それ以外に浮かぶ言葉はなくて。馬鹿なわたしは形容する術をもたなくて。


どうにもしっくり来ないけれど、でもやっぱりこれが一番真っ直ぐな言葉だと思うんだ。

うん、――あなたが好きなの。




「あれ?姫じゃん。お前、こんなとこで何してんの」

「…えーっと、補習授業?」

「何で疑問なの。つーか明らかに嘘なのバレバレなんだけど、ツッコんで欲しいわけ?」



ここは誰も居ない空き教室。それどころか使われてすらもいなく、半年も前に文化祭で物置部屋になったくらいだ。

そんな所にわたしが居たことに彼は大層驚いたのか、突っ立ったまま動かない。少々呆れ顔でもあったのは気のせいだということにしておこう。


わたしからしたら、銀ちゃんの方こそどうしてここに、という心境だったのだけれど。ゆるり、柔らかく笑んだ。



「奇遇だね」

「そうだな。……何か考え事でもしてた?俺、邪魔したみてーで悪ィ」

「そんなことないよ。寧ろナイスタイミングだったかな」



だって、ずっと考えていたのは、あなたのこと。

昨日のおかずとか、帰ったら何しようとか、くだらないことも考えてみたけれど、結局辿り着いたのはあなたの存在だった。笑っている顔も怒っている顔も真剣な顔も、思い出す度にわたしの胸を擽る。妙に温かくて、幸せな気持ちになる。




「ねえ、」

「ん?」

「お願い、……笑わないで聞いてくれる?」



伝えてしまえば、楽になるのだろうか。伝えたとしたら、もっと幸せになれるのだろうか。

どちらの可能性もまだ分からないままだったけれど、ただ無性に、触れたくなった。彼のふわふわとした銀髪を眺めながら、何となしに唇を薄く開いて。



「すきだよ」



彼は、動かない。無言のままふたつの瞳を此方に向けて。

わたしは今度は彼の瞳を捉え、再び言葉を紡ぎだす。微笑んだわたし。よっつの視線は絡まり、絡まる。



「銀ちゃんが、好き」



ありきたりな告白でごめんね。しかしどれだけ考えたところでこれ以上のものはなくて、溢れ出るのはそればかりで。わたしの気持ちのすべては、この言葉でこそ言い表せるのだから。


ずっとね、好きだったんだ。


想いが募り、はじけた。

ほんの、ほんの一瞬だけ、わたしと彼の時間が止まったような気がして。けれど、ぷつり、繋がり合った糸を先に切ったのは彼の方だった。



「やっと、……っ」



そうしてわたしが聞き取れたのはそこまでで、いつの間にか彼はわたしの視界から消えていて。刹那ふわり、と甘い甘い香りに包み込まれていた。

ずっと追い続けてきた彼の匂いに、何よりも安心するわたしがいる。どくんどくん、鼓動が高鳴り心臓が痛い。銀髪が鼻の先で揺れて、顔に全身の熱が集まったみたいだった。


ああ、わたし抱き締められたんだ。なんて、夢みたいで。あなたの両腕で、抱いて、もらえたんだ。なんて、幸せで。



「――すきだよ、」



わたしがもう何度呟いたかわからないその言葉を、いま、あなたが初めて囁きました。






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