I want to..





「あんたが、好きでさァ」




――彼女に愛を告げた日から、早くも半年が過ぎようとしている。

肌寒い風が身体を撫で、沖田は思わず身震いをしコートの前を寄せ合った。


今、季節は晩秋、いやもう冬に差し掛かった頃なのだろうか。

暖かな太陽とは裏腹に吹く寒気と舞い上がる木枯らしが、妙に物淋しさを感じさせた。



「なァ姫……手、握ってもいいですかィ?」

「…駄目な筈ないでしょ?」

「そりゃそーだ」



隣で優しく微笑む彼女の掌をやんわりと包み込めば、自身の冷え切った手が温められていく感覚。

雪解けの日溜まりのように、それは緩やかに訪れた。

熱が繋がり合う事が、今はこんなにも心地良い。


沖田ははあ、と真っ白な息を吐き出してみる。

と同時に、姫がストロベリーの香りのする潤った唇を薄く開いた。



「ねえ、総悟の手、すっごく冷たいんだけど…」

「俺ァその分心があったかいんですぜ」

「絶対うそ。あ、じゃあ私の心は冷たいってこと?」

「いや、姫は特別。」



あんたは、――続けようとしていた言葉は切り、香りに吸い込まれるようにして沖田は姫の唇を奪った。

驚いて目を見開いたままの彼女を上目で伺ってから、再び、口付けて。

甘く優しい時間を存分に堪能した後、やっと唇を離してやる。



「ふっ、…はっ……」

「ん、気持ち良かったですかィ?」

「…っ総悟のバカ!いきなりすぎるよ!」

「美味しそうな唇してたんで、つい、ね……?」



そう意地悪く笑えば、顔中を熟れた林檎のように真っ赤に火照らせた姫が、下から睨み付けてきた。

呼吸をする事を許された口元からは白い息を大量に吐き出して、ラインの細い華奢な肩を上下に揺らす。

その全てが愛らしくて愛おしくて、胸がほっこりと温まった。


沖田は姫の髪に指を通しながら、視線だけを辺り一帯へと移した。

イルミネーションで飾り付けられた街灯に明かりが灯り、店先ではカラフルな商品と共に掛けられた小さなリース。

おまけに広場の中心には、大きなツリーに色とりどりの飾り付けが施してある。



「もうすぐ、クリスマスなんですねィ。つっても一カ月近くは先の話か…」



沖田につられたのか、いつの間にか同じように辺りを見回していた姫は一言、綺麗……と声を漏らした。

女はこういうキラキラピカピカした物が好きなんだと、俺はつくづく思い知る。



「姫。そういやァ…サンタさんからのプレゼントは、何がいーんで?」

「んー、総悟。」

「…俺はもうとっくに、あんたのものですけどねィ」

「……と、過ごす時間。イブもクリスマスも一緒に過ごせたら、他には何もいらない」



目を伏せた彼女の瞳からは、ほんの少しだけ、寂しさが垣間見えた。

沖田はサボる事は出来ても非番を貰う事は少なかったから、中々長いこと時間を取ってやれなかったのだ。

それはきっと、ずっと我慢していたであろう本音だった。


――後で絶対、土方のクソヤローに文句言ってやりまさァ。


沖田は姫を抱き寄せた。

気のせいかもしれない、しかし姫から零れる涙は見たくなくて。

あの笑顔を護りたい、と瞬時に思ってしまって。

強くキツく、両腕の中に囲われた儚い彼女をぎゅうっと抱き締める。



「……俺は姫が、好き」



「え?」

「だから少しでも多く、あんたが喜んでくれる事をしてェんでィ」
「…総悟、」

「――期待してて下せェ。姫にとって一生忘れられない、最高のクリスマスにしてやりまさァ!」



これが恋人として過ごす初めてのクリスマスなのだ、退屈なんて絶対させやしない。

俺だけで胸中いっぱいにしてやる。


沖田はにやりと口許を緩め、緩やかな弧を描くと、また再び姫の髪を撫でてやった。

戸惑う彼女に触れながら、その目許に優しくふわりとキスを落として。

ずっと笑って、そう仄かな願いを送り込めた。






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