永遠のループ





綺麗な着物で繕って、少しでも彼女を魅せようとする。

三味線の音色で彩って、少しでも彼女を振り向かせようとする。


――全く何て馬鹿げた真似を。


自嘲気味に微笑んで、俺は姫を抱き寄せた。

これが愛の籠った抱擁だとは露知らず、彼女は俺に無邪気な笑みを溢すだけ。



「ちょっと!苦しいよ、晋助!寒いからって私に抱き着かないのっ」

「ククク…いいだろうが?減るもんじゃねェしなァ」

「んもう!晋助がそんなだから私達付き合ってるって誤解されちゃうんだよ」

「あ?別に俺は構わねーぜ」



…てめェは嫌なのかァ?、
そう聞きたくて開きかけた唇を咄嗟に噛み締めた。


今の関係を壊してしまう事が、何よりも不幸なのだと知ってしまったから。

これ以上の幸を望んでも、それが叶うとは限らない。


それならば……と噛み締めて噛み砕いて、今か今かと待ち続けて。

姫にとって、良き友人以上の自分となる事を想像してみる。



「私はそろそろ帰るけど…、今晩万斉さんは?」

「帰って来ねェらしいなァ」

「そっか。…ご飯、しっかり食べてよ?何だか晋助一人じゃ心配だな」



クスクス、と微笑んで、俺にひらりと手を振る彼女。

やがて姫の横顔が見えなくなり、その背中が向けられた。


刹那、俺を襲った彼女への膨らみ過ぎてしまった、感情。

堪えられず、彼女を後ろから再び抱き締めて耳元で囁いた。



「んなに心配なら、今日は一晩泊まってけばいいじゃねェかァ?布団だって空きがあるぜ」

「ふふ、駄目だよ。晋助と一晩過ごしたら何されるか分からないから」

──じゃあね、また明日。



無情に告げられた別れの言葉と、引き離された身体の温もり。

冗談だと笑って受け流された想いは、きっと本物だというのに。

触れているのに届かない──。

そのもどかしさに肩を落とし、俺は姫に意地悪く笑ってみせた。



「クク…冗談に決まってんだろ。明るいうちに早く帰んなァ」



うん、と頷いて早足に去って行く姫の後ろ姿を眺め、それからすっと月を仰ぎ見た。


其れは皮肉なことに、何と美しい満月だろうか──。


重なることの無い此の心を俺は胸の内に抱き、濁った瞳でその月を見上げている。何度も何度も繰り返される日常は、余りに空虚に、日々淡々と過ぎて行くだけだった。



「いつまで、やってんだ…俺ァ…」



ただ、彼女に振り向いて欲しくて。
ただ、愛してると囁かせて欲しい。

手を伸ばせばあと少しなのに、君までの距離はまるで永久のように感じてしまう。

──俺はそこまで思い、思考回路を止めた。



「…ククッ……遠いもんだ、」



そして、煙管から吐き出された煙に巻かれながら、俺はゆっくりと瞳を閉じた。






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