さぁああ、と春の雨が降り注ぐ。そんな中、傘を差さないで歩く。



「……なにしてんだろう」



スクアーロとケンカしてアジトを飛び出して来た。アジトにいればよかったんだろうけど、生憎みんな任務であたしの愚痴を聞いてくれる人はいない。



「…寒い」



ぶるっと身体が震える。春といっても、まだまだ寒い。それにこの雨。今日は本当についてない。
どうしてケンカしたんだっけ、…昨日はあたしたちが付き合って一年目の記念日だったのに、スクアーロが任務から帰って来なかったからだ。

あたしとの記念日を忘れて、部下と飲みに行ってたんだってさ。しかもその部下は女の人。
日本人のあたしと違って、イタリア人の彼女はあたしにないものをたくさんもっている。

この前も部下たちの話を偶然聞いてしまったときに「なぜスクアーロ隊長はあんな小娘を選んだんだろう」って言ってた。

あたしだって一応幹部だけれど、大人の人たちに舐められてばっかり。
あたしとスクアーロが釣り合わないなんて最初から分かっていた。

でも、お互い好きって気持ちがあれば大丈夫だと思ってた。あたしのことを好きって言ってくれたスクアーロを信じていた。…もう、どうしたらいいのか分からないよ。


プルルルルッ。



突然ポケットに入れていたケータイが鳴った。表示されてるのはスクアーロの名前。


「…………はい」

「てめぇ今どこほっつき歩いてるんだぁ?」

「…スクアーロには関係ない」



はぁ、とスクアーロがため息をついた。ため息をつきたいのはこっちだ。



「名前、いい加減にー…」

「ねぇ、あたしたちって一体なんだろうね」

「あ゙ぁ?」



スクアーロの言葉を遮ってあたしの唇が動いた。



「あたし、もうスクアーロが分からないよ」

「…どういうことだぁ?」

「スクアーロが好きか分からない…最初っからあたしたちは無理だったんだよ」

「名前」




「別れよう、スクアーロ」

「ゔぉおい!待て、名前!今どこにー」



ブチッと電話を切った。今どこになんて、分からないよ。薄暗い路地裏であたしは静かに涙を流した。

こんなことが言いたかったんじゃない。ごめんねって、意地張ってごめんなさいって謝りたかった。



「…ーっスクアーロ、スクアーロ!」



溢れ出てくる涙は止まることを知らない。雨と涙が一緒になってあたしの頬を濡らした。
ごめんね、スクアーロ。本当は今すぐにでも抱き締めてもらいたい。でも、あたしと一緒にいたらスクアーロはダメなんだよ。

もっといい女の人見つけて、周りからお似合いって言われて、幸せになってほしい。


「ーぅぐっ、スクアー、ロぉ…」

「名前!!!」

「……………え?」



しゃがみ込んで泣いていると、スクアーロの声がした。見上げると息を切らして雨に濡れたスクアーロがいた。

雨に濡れたスクアーロは驚くほど綺麗だった。



「なんっでーひっく、ここにいるのぉ…?」

「てめぇが電話を切るからだろうがぁ」



ぐいっとスクアーロに立たされて抱き締められた。



「…昨日は悪かった」

「…ーっあたし、だって、」



涙と嗚咽で上手く声が出せない。あたしの方が悪いのに。勝手に怒って、勝手に別れを告げたのに。



「教会を探しててよぉ、飲みに行ったなんて嘘ついた」

「……教会?」

「本当は昨日連れてってやりたかったんだがなぁ…女の部下には知ってる教会を案内してもらってたんだぁ」

「なんで、教会?」

「オレと名前が付き合って一年だろぉ?」

「うん、」



スクアーロはあたしの顎を指で持ち上げて、あたしとスクアーロのおでこがくっついた。



「…結婚してくれ、名前がいねぇなんてもう考えられねぇんだ」



はっと息を吸い込んだ。…結婚?あたしとスクアーロが?式場を探しててくれたから遅くなったの?



「でも、あたしじゃあスクアーロに釣り合わないよっ…!」

「誰がそんなこと言ったんだぁ?ったく、オレは名前がいいんだ。名前以外なんて考えれねぇよ」

「…スクアーロ」

「返事はしてくれねぇのか?」

「…あたしもスクアーロのこと好き」



ニッと口角を上げて笑うスクアーロ。薄くて冷たいスクアーロの唇があたしの唇と重なった。

雨で冷え切っていた身体は、絡み合う熱い舌で火照った。



「…帰るかぁ」



ぎゅっとあたしの手を握り、歩き出すスクアーロ。春の雨は降り続いたまま。

でもね、どしゃぶりの雨でもスクアーロとなら喜んで濡れて帰るよ。


見上げれば貴方がいた
(降り注ぐ春の雨のように)


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必ず1回はキスを書きたい真白です←

by 真 白



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