「ベルなんか死んじゃえー」
「しょうがねぇじゃん。任務なんだしよ」
「じゃあボスが死んじゃーもがっ!」
「んな大声で言ったら、ボスに聞こえるだろ」
なんであたしがこんなに怒っているのかというと、今日は2人が付き合って半年の記念日だからお祝いしよーねって約束していたのに、ボスがあたしに任務入れやがった。
この前の記念日だって、ベルが任務で祝えなかったし、その前はフランに邪魔されたし…あーもうっ!思い出していたらきりがない!
「早く帰ってこいよ、待ってっから」
「…はーい」
よしよしと、ベルの手のひらがあたしの頭を撫でる。細くて長い指がすうっと髪をすくって髪にキスをした。…これはベルの癖。
ベルはあたしの髪を好きだって言ってくれた。だから、あたしはベルが好きだって言ってくれた髪を綺麗に一生懸命伸ばしている。そうしたら、ベルがこうやってキスをしてくれるから。
「じゃーな」
「いってきまーす」
ベルに見送ってもらって屋敷の前に待たせていた車に乗り込む。…こんな任務ちゃっちゃと終わらせて早く帰ろう。
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「………ふぅ」
ピッピッと愛用の銃についた血を払う。任務は意外とすぐ終わった。敵の数に誤算があって、報告された人数よりもかなり少なかった。…なんかおかしい。
ヴァリアーの情報に誤差があるなんて通常はありえない。あったとしても、人数は少なくなるというより、多くなる。…早くここから離れた方がいいかも。
急ぎ足で敵アジトを離れようとすると、背後でカチッとなにかスイッチが入った音がした。その瞬間、鼓膜が破れるくらい大きな音とともに、あたしの身体は飛ばされた。
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「……………ん」
目が覚めたら、あたしはヴァリアーの医務室にいた。鼻につく独特の消毒液の匂いと、ピッピッというあたしが生きている証拠を表す音。
そっか、あたし爆発に巻き込まれたんだ。その後、外で待機していた部下に助けてもらってここまできたんだ。………ん?なんか首もとがやけにすーすーする。
気になって、あたしは自分の髪を触ろうとしたけど、掴んだのは何にもない空間。
「…へ?」
髪が、ない?くしゃっと自分の頭を触る。長かった髪は、今では肩につくかつかないかのところ。
「う、そ……」
その時、コツコツと誰かが歩いてくる音が聞こえた。気配で分かる。これはベル。こんな姿ベルに見られたくない!
あたしはがばっと毛布をかぶり、中に隠れた。
「名前、」
「…来ないで」
「なーに言ってんだよ、王子、名前が死んだかと思って心配したんだけど」
ぽふっと毛布の上からあたしの頭を撫でてくれるベル。…優しい。ごめんね、あたしの髪はもうないから、ベルにキスしてもらうことが出来ない。…ベルに嫌われちゃうかな。
「うししっ、隠れてないで出て来いよ」
「だめっ!!!」
せっかく隠れていた毛布が、ベルの手によって、簡単にはがされた。慌ててあたしは髪を隠すように手を頭の上に置いた。
「名前……その髪…」
「髪、なくなっちゃって…ベルには絶対見られたくなくって、でも…っ…お願い、嫌いにならないで…」
ポロポロと目から涙が零れた。もう最悪。せっかくの記念日だったのに、爆発に巻き込まれるわ、髪はなくなるわ、挙げ句の果てにベルにこんな姿見られて…。
「泣くなよ」
ふわっとベルに抱きしめられた。そしてベルはあたしの前髪にキスをする。そのキスはだんだん下がってきて、唇にする前に止まった。
「髪がなくたって名前は名前だろ」
「でも、」
「でも、じゃねーよ。王子が髪がなくなっただけで名前のこと嫌いになるわけねーし」
「うぅー…ベ、ル…」
「短いのも似合ってんじゃね?さすが、王子の姫」
そう言ってベルはあたしにキスをした。…ありがとう、ベル。
(ボスがなぜか一週間休みにしてくれた)
(もしかして名前の髪がなくなったの自分が悪いと思ってんじゃねーの?)
(…ボスが考えていることはよく分かんない)
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11/04/24
by 真 白
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