…なんか変な気分。ツナマヨ君のことじゃなくて、スクアーロ先生とこんなに近くにいるのが。
もしかしたら、先生はあたしの告白忘れちゃったのかも。先生なら星の数ほど告白されていそうだもん。あたしもその中の一人か。
「あの、雨芽さん」
「…なんだい、ツナマヨ君」
「食堂おごるので、一緒に行きませんか?」
「……本当に?」
「はい、…まぁ」
間違えてしまったおわびです。と、可愛く笑うツナマヨ君。なんだこの子。すっごくいい子なんじゃないか。
いや、あれだよね。たかが、学年1つ間違えられただけで怒るあたしも大人げなかったね。うん、おごってもらおう。
「ありがとう!ツナマヨ君!!」
「だから綱吉ですってば!…ツナでいいですよ」
「おおう、あたしがカタカナ嫌いだとよく知っているね!」
「そうじゃなくて…あ、1つ聞いてもいいですか?」
「ん?」
「背中のそれ、なんですか?」
…背中?むにーと腕を伸ばして背中に触れてみる。んー…紙?引っ張ってみたら、簡単に剥がれた。あ、セロテープで貼ってあったのか。
んーなになに?『変な人間ですみません』。
「…は?」
「お前、マジで気づいてなかったわけ?」
「ミーが朝貼ってあげたんですよー。進級祝いに」
朝、フランに髪を結んでもらったとき。…そうか、フランは優しくなんてなっていなかった。より悪態付いていたの間違いだった。
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「で、沢田はなんで朝遅刻したんだぁ?」
「えっと、道に迷っちゃて…」
「あ゙ぁ?坂登ってくればいいだけの話じゃねぇか」
「いや、その…登るとこ間違えちゃって」
あたふたと言い訳するツナ君。…そういえば銀杏並木が綺麗な坂がこの近くにあったなぁ。秋になると、一面真っ黄色で黄色の絨毯っていうより、黄色の床って感じ。
「んで、おまえ等は?」
「雨芽が寝坊したのをーミーが迎えに行ってきましたー」
「ったく、雨芽は毎回毎回…」
あ、先生に名前呼ばれたの久しぶり。なんだか耳をこしょこしょくすぐられたみたいで、むず痒くなって慌てて耳を抑えた。
「なにやってんだぁ?」
「な、なんでもないです」
首をかしげてクエスチョンマークを浮かべる先生。確かに挙動不審っぽく見えるかもしれないけど、先生のせいだ。うん。
「まぁいい、おまえ等は食堂行く前に反省文だぁ」
「はっ反省文!?嘘だ!去年はなかったもん」
「もんじゃねぇ、オレが決めた」
「ちぇっ。こんなんだったら雨芽のこと迎えに行くんじゃなかったなー」
去年のロマーリオ先生は反省文なんて書かせなかったのに!
…でも、おかげでまだちょっと先生と一緒にいれる。きっと、もう理由なしには話しかけれない存在になっちゃったから、先生の傍にいれる理由ならなんだってほしい。
「10代目!!!!」
そのとき、バァンっと音をたてて指導室の扉が開いた。開いた先にいたのは、タバコをくわえて銀髪を真ん中に分けた男の人。
「こんなところにいらっしゃったんスね!」
「ご、獄寺くん!?」
「…10代目?」
どうやらゴンタクレくんというこの子は、ツナ君を探していたみたいだけど…10代目って何?ツナ君なんかすごい人なの?
「10代目ってなんですかー?」
「なっ!?てめぇ、10代目のこと知らねぇのかよ!」
「あたしも知らなーい」
「いいか?この方はボンゴレ学園生徒会長10代目候補だっ!」
…いや、ゴンタクレくんにどや顔されても…。えっと、ツナくんが生徒会長候補?あれ?骸先輩はどうしちゃったんだろう。ああ、やっぱり退学とかかなぁ。変態だから。
「そういえば、ししょーは今年で卒業でしたねー」
「あ、…ってことはベルも?」
「そーなんじゃね?」
ベルが卒業、かぁ。じゃあ今年でベルと一緒にいれるのも最後…なんか悲しい。考えれば、骸先輩もか。いや、別に骸先輩はどうでもいいや。
「…ゔぉおい、お前ら、反省文放置とはいい度胸じゃねえか」
「ヒイッ!?」
「あ、忘れてた」
「さっさと書かねぇと枚数追加だぁ!!!」
ただでさえ、5枚も書かなくちゃいけないのに、さらに追加って…いやいやいや、こんなこと考えてないで書かなくちゃ!
結局、反省文が書けたのは夕方になってからで、食堂は始業式だったから既に閉まっていた。
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「うぅ〜フランのバカ野郎っ!」
食堂に行けなくなったあたしたちは、仕方ないから帰ることになったんだけれど、あたしとフランのカバンは教室に置きっぱなし。で、ジャンケンで負けたあたしがカバンを取りに行く羽目になった。
「あ、まだ電気ついてる」
こんな時間まで誰が残っているんだろう。ガララッと開けた扉の先にいたのは、窓の縁にもたれかかって、外を見つめているスクアーロ先生だった。
「…なにしに来たんだぁ?」
「か、カバンを取りに…」
「そうかぁ」
チラリとあたしを見て、また窓の外を見つめる先生。先生と2人っきりでいる。…すごく、息苦しい。
チラッと先生を見ると先生はタバコを吸っていた。口にくわえる仕草がすごく大人っぽくて、息をするのを忘れるくらい見惚れてしまった。
あたしとフランの分のカバンを取って、小さくさようなら、と呟いて教室の扉に手をかけたときだった。
「雨芽。」
ビクッと肩が揺れた。おそるおそる後ろを振り返ると、眉を眉間によせ、口をへの字にして目を伏せているスクアーロ先生がいた。
この顔、あたしが告白したときにも先生はこんな顔をしていた。ゆっくりとあたしに近づいてきて、あたしの目の前で止まった。
「…やっぱなんでもねぇ。気をつけて帰れよぉ」
ポンポンとあたしの頭を撫でて、先生は教室から出て行ってしまった。
あたしはその場にしゃがみこんで、フランが呼びにくるまで、ずっと声を殺して泣いていた。
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11/07/10
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