文化祭が終わって一気に季節は夏になった。雲一つない青空に輝く太陽。その下で青々と輝く森林。コンクリートはじりじりと温められ、触るだけで火傷しそう。プールから聞こえる水の音だけが、唯一この暑さを忘れさせてくれる。
あたしは今、授業中にも関わらず屋上に来ている。隣にはエメラルドグリーンの髪をサラサラとなびかせていて、そっぽを向いたままのあたしの…親友。フランにだけは伝えようと思っていた。あたしとスクアーロ先生の関係を。
「あの、ね。付き合うことになったんだ」
「…………。」
「…フラン?」
スッと、さっきまでそっぽを向いていたフランがこっちを向いて、あたしの顔に両手を添えた。近づいてくる顔を見て、あたしは思わず目をつぶった。…けど、それはすぐに開けることとなる。
「いひゃいっ!」
「驚くほどのアホ面ですねー」
顔に添えられた手は、左右に伸びていてついでにあたしの頬も左右に伸びていている。なんなんだ、このカエル。なにがしたいんだ、このカエル。殴っていいかな?殴っていいよね、こいつ。
「よかったじゃないですかー。ミーが一芝居した甲斐がありましたよー」
「ひ、ひひょひばい?」
「文化祭でのことですよー」
ん?つまりフランがあたしに告白したことも、キスしたことも実は嘘だったっていうの?ちょっと待て、あれあたしのファーストキスだったんだけど。いや、でも、フランのおかげでスクアーロ先生と付き合えるようになって…なにがなんだか分からなくなって、あたしはこめかみをおさえた。
「…じゃあ、あのキスは?」
「お駄賃、ですかねー?」
殴った。フランの顔に思いっきり振りかぶった手は、ひょいっと避けられてしまい、バランスを崩したあたしは、そのままコンクリート上に「うぎゃっ」とか言いながら、べちゃっと崩れた。いや、もっと女の子らしく「きゃっ」とか言いたいんだけど。
「あ、今日のお昼は雨芽の奢りでー」
「何で!?」
「昼休みにはちゃんと食堂に来るんですよー」
あたしの質問を無視して、フランはスタスタと屋上から出て行ってしまった。炎天下の中一人残されたあたし。…あたしも室内に戻ろう。そして今度こそフランを見つけたら、殴っておいてやろうじゃないか。そう思って、ドアノブに手をかけた瞬間、ドアが開いた。…スクアーロ先生の手によって。
「…何してんだぁ?」
「…えへ」
先生をすり抜けて逃げようとしたが、失敗に終わった。がしっと捕まえられかと思うと、そのまま、肩に担がれた。え、どこに行くんですか先生?明らかに校内でこんな風に担がれていたらおかしいでしょ!あ、でも今授業中だから大丈夫か…いやいやいや、そういう問題じゃなくってさ。
「…どこ行くんですか?」
「生徒指導室に決まってんだろぉ」
「ですよねー」
その後、あたしは昼休みまで反省文5枚は書かされることとなる。いや、いつもなら書き慣れているからこんなもの一時間で終わるんだけれど、先生に邪魔された。…それはまた、別の話だけどね。
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「はぁ」
本当にミーって何がしたいんでしょーかねー?芝居?そんなのありえないじゃないですかー?ミーの純情な気持ちを返せってんですー。まぁ、自分からそうやって言ったんですけどねー。
…雨芽と前みたいな関係に戻れなくなってしまうんじゃないかと思うと、急に怖くなった。だったら、ミーは誰よりも近くにいて、誰よりも雨芽のことを理解している…親友でいいと思った。
ミーはスクアーロ先生の知らない雨芽をいっぱい知っている。それだけで、十分じゃないですかー。例え、雨芽が幸せなときに隣にいるのが先生だとしても、雨芽が辛いときに隣にいるのはミーじゃなきゃいけないんですー。
ねぇ、雨芽。ミーがいなくちゃ生きていけないようになって下さい。ぐちゃぐちゃに涙で濡れたその顔を、そっと拭ってあげて、抱きしめることが出来るのはミーだけですよー?先生じゃなく、ミーなんです。雨芽のあの秘密を知っているのは、ミーだけなんですからー。
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11/11/12
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