いつものように寮に戻って、適当に過ごしてシャワーを浴びて寝る。風呂上がりの牛乳はもちろんかかせないよな。なんてことを考えていたら、突然、誰かがインターホンを鳴らした。





「誰だよ、こんな時間に…」





無視しようかと思ったが、なぜか扉を開けなくてはいけない気がした。王子の勘ってよく当たるんだよな。開けた先には、ボロボロに泣き崩れた雨芽が立っていた。





「なっ…!?どうしたんだよ!」


「……うっ…ひっく」





とりあえず雨芽を中に招き入れ、ベッドに座らせ、飲もうとしていた牛乳をあげた。王子が人に物をやるなんて珍しいな、と思ったけど今はそんな場合じゃねーし。





「なんかあったのかよ」


「…………フランが」





雨芽から聞いた話は、安っぽい昼ドラみたいな、ありきたりのようだけれど、実際に現実で起こるようなことのない話だった。つーかフランは今までよく我慢した方だと思う。雨芽は鈍感だしなー…うしし、だからおもしろいんだけどな。





「んで、泣きながらオレのとこ来たわけ?」





コクリとうなずく雨芽は、目を真っ赤にして鼻をくずらせ、不細工としか言えない顔だけれど、なぜかオレは綺麗だ、っと思った。





「…どうしたらいいのか分かんないよ」


「んじゃあ聞くけど、お前にとってフランって何なんだよ?」


「フランはあたしにとって…」





まぁ、きっとただの友達だろうな。所詮一番仲が良い男友達止まり。うししし、フランかわいそー…ま、オレもだけどな。





「大切な人だよ、でも恋人の好きとかじゃなくて、なんて言うんだろう…家族みたいな、そんな感じ」


「ふーん」





雨芽には家族がいない。だからこそ、家族っていうのがどんな存在なのか分かんねーよな。オレやフランが雨芽にとってそういう存在に位置するくらいは分かる。正直、オレも家族なんてどんなもんか分かんねーけど。





「んじゃあ、スク先生は?」


「……………。」





急に黙り込んでしまった雨芽。前だったら、すぐに顔を真っ赤にしてさんざん怒鳴ったあげく、好きって小さい声で言ってたんだけどな。そのときの雨芽が可愛くて、スク先生にはやりたくねぇって思った。




「好き、だけど分からない」


「…なんだよ、それ」


「叶わない恋なのにいつまでも未練があったらダメかなって思って」





…実際はこいつらは両想いなんだけどな。王子はそこまで優しくねーから、このことは言わないけど。スク先生もこれからどうすんだろうな…。





「………うっ、ひ」





しばらく黙っていたらまた泣き出した雨芽。…見てらんねーよな。大事な奴が目の前で泣いてるっていうのに、オレの腕はその肩を寄せてやったり、髪を撫でてやったりしようとしない。自分で分かっているからだ。そんなことしたら、もう元には戻れないと。





「雨芽、お前もう一回だけスク先生に告れ」


「………え?」


「これで最後にしろ。告ってけじめつけてこいよ…振られたら、いつでもオレが慰めてやるから」


「ベル…」





だってさ、これ以上お前の泣き顔なんて見ていられねぇんだよ。オレじゃない奴を想って泣いている雨芽なんか見たくねーよ。





「ベルっていい人だよね…」





バーカ。んなこと言うなよ。いい人と好きになる人は違うって昔から言うじゃん。あーあ、雨芽もバカだけど、オレはもっとバカなのかもな。



昔から欲しいものはなんだって手に入れてきた王子が、今回は違うんだぜ?他人の幸せを願うなんてしたことねーし。だけど、雨芽だから。お前だから、こんな風に想えるのかもしんないな。お前はオレの……「家族」だからな。





「ほら、泣くんじゃねーよ」


「うぶっ」





タオルでごしごしと顔を拭いてやれば、いつものとは言えないけど、笑顔になった雨芽。やっぱさ、お前には笑顔が一番似合うよ。





「…オレの知らないとこで泣くんじゃねーよ」


「え?」


「うしし、なんでもなーい」


「? 変なベル」


「泣きたくなったら、いつでも王子んとこ来いっつたんだよ」





オレ以外の野郎がこいつの泣き顔を見なくていいように。雨芽を慰めるのは、王子だけの特権になればいい。フランみたいに気持ちを伝えることも出来ねーし、スク先生みたいに雨芽に想われてるわけでもない。



オレはただ、こいつのそばにいて、これから先もずっと「いい人」のポジションでこいつの傍にいる。無謀な賭けはしねーよ。だってオレ、王子だもん。





「劇の練習どうすんだよ?」


「あ、…どうしよう」


「王子が一緒にいてやろーか?」





そうやって言えば、また雨芽が「やっぱりベルはいい人だね」って言うから、胸の奥がぎゅうっと締め上げられた感覚になった。



…いつか、お前が涙に明け暮れて、オレを必要としたときに、オレは黙ってお前に手をさしのべて抱き寄せてやるよ。そのときに、オレの気持ちを教えてやる。…でも、きっとありえねーだろうな。










窓から見える空には、無数の星が散らばっていて、これから広がる無数の未来を表しているようだった。なぁ、神様なんて信じねーけど、せめてこいつが笑っていられる未来になってくれよな。…あいつの横で。









--------------------------------

11/08/24








「#寸止め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -