ガチャッとオレは屋上のドアを開けた。携帯電話が鳴ったのは、楠島からのメールを受信したからだ。内容は屋上に来てほしい。
…今までのことを問い詰めてやろうと思っていたから、丁度よかった。屋上にはすでに楠島がいた。
「スクアーロ先生」
「ゔぉおい、随分いろいろやってくれたそうじゃねぇか」
「……ああ、バレちゃったんですか」
「どうしてこんなことしたんだぁ?」
問い詰めようと楠島に近づいたとき、突然楠島が抱き付いてきた。いきなりのことで頭が回らず、避けることが出来なかった。
「あたし、スクアーロ先生が好きなんです!」
…楠島がオレをそういう目で見ていたことはなんとなく分かっていた。だからあえて冷たくあしらってたんだがなぁ…あれか?冷たくされると逆に燃えるタイプかぁ?
「…お前の気持ちには答えられねぇ」
「なんでですか!?…あたしじゃダメなんですか!」
「守りてぇ奴がいる」
言ってから自分でも驚いた。口が勝手に動いていた。守りてぇ奴なんていねぇし…まぁ、断る口実には丁度いい。これくらい言っとかねぇと諦めねぇだろ、楠島は。
「……雨芽ちゃんですか?」
「…………はぁ?」
なんでそこに雨芽が出てくるんだぁ?今は関係ねぇだろ。……だが妙に納得している自分がいる。…どういうことだぁ?
「答えて下さい、雨芽ちゃんですか?」
「それはー…」
「あっれー?こんなところで何やってるんですかー?」
「うししし、サボってんじゃねーよ」
バッと振り返ると、ドアの前にベルとフランがいた。ったく、盗み聞きしてんじゃねーぞぉ。まぁ、助かった。オレは楠島から離れる。
「スクアーロ先生!」
「うるせぇ、お前にはそういう気はねぇんだ」
「そんな…!?」
楠島は一瞬目を見開き、オレをキッと睨んでから走って屋上を出て行った。ドアの前にいたベルとフランなんて目にもくれず。
「あー泣いちゃいましたよー?」
「雨芽を傷つけたんだからこれくらい当たり前じゃね?」
「おら、さっさと降りて体育祭に参加するぞぉ」
泣かすつもりはなかったが、たとえ教育実習生だとしてもオレの生徒を傷つける奴は許さねぇ。…体育祭が終わったら、雨芽の様子でも見に行くかぁ。
「スクアーロせんせー」
「あ゙ぁ?」
「さっきの、返事次第ではたたじゃおきませんからー」
「………は?」
それじゃ、先に行くんでーっとフランは言って、先に行ってしまった。オレはしばらく、屋上の階段から動けなかった。
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「ありえない、ありえない!」
今まで欲しいものはなんだって手には入った。人のものだとしても、あたしがちょっと笑顔で話かければたちまち男はあたしの虜になった。
スラリと伸びた弾力性のある白い足、キュッと締まったくびれ。綺麗なラインの二重瞼。薄いピンクの柔らかい唇。あたしは自分に絶対的な自信があった。
この学校に教育実習生として来て、スクアーロ先生と出逢って、心の底から自分のものにしたいと思った。ああいう男を自分の虜に出来たら、なんて気持ちいいんだろう。そう思った。
でも、彼の目の先にはいつも一人の生徒が映っていた。…蓮野雨芽。スクアーロ先生を手に入れようとすればするほど、その存在は邪魔になっていった。だから、スクアーロ先生に関わらないよう、あんな嘘までついた。
「……許さない」
「ん?楠島じゃねーか!」
「……山本先生」
屋上から飛び出して、体育祭に戻る気にもなれず、校舎をうろついていたら山本先生と出逢った。ニカッと笑う顔。誰もが彼に抱く第一印象は良いだろうけど、あたしは最悪だった。
こいつ本当に男なの?って思うくらいあたしになびかない。いっつもニコニコして何を考えているのか分からない男。
「……なんかあったのか?」
「…え?」
「いや、なんか楠島が泣きそうな顔してっからよ」
バッとポケットに入れていたミラーを見た。確かに、目は涙の膜を張っているけれど…笑えばごまかせる程度。
「別に、なんともありませんよ?」
「…無理に笑うことないだろ?俺でよかったら話聞くぜ?」
驚いた。今まであたしの周りにこんな男はいなかったから。だいたいの男はあたしの容姿目当て。それか親の金。あたしの気持ちを考えようとする奴なんていなかった。
なんなのよ、この男。さっきまでニコニコしていたと思えば、真剣な顔で心配して…あたしがそうされるのに弱いって知ってるんじゃないの?
「…少し、胸を借りてもいいですか?」
「あぁ」
山本先生の胸を借りて静かに泣いた。本気でスクアーロ先生が好きだったから。最初はゲーム感覚だったのに、雨芽ちゃんに対する態度をみて、あたしにもああして欲しいって思ったから。
雨芽ちゃんが羨ましかった。というより、あたしもスクアーロ先生みたいに優しくしてくれる存在が欲しかったのかもしれない。
抱き付いた山本先生は温かくて、トクンと、自分の胸が鳴った気がした。
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11/05/12
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