「むぅー…楽しかったぁ」
スクアーロとイタリアをある程度観光した後、十年後のあたしとスクアーロがよく行ったというカフェに入った。
「どれにするか決めたかぁ?」
「んとー…その…」
「どうした?」
「イタリア語読めないなーって」
十年後のあたしがどうかなんて分からないけど、あたしがイタリア語を読めないのは当たり前。英語ですらままならないのに。
あ、過去に帰ったら英語の追試験があったような気がする…。
「ったく、じゃあ十年後の名前がいつも頼んでたのにすっか」
「よろしくお願いします…」
ウェイトレスさんを読んでイタリア語をペラペラ喋るスクアーロを見て、本当にどうしてこの人はあたしと付き合ったんだろうって思った。
料理が来るまでの間、スクアーロは食前酒を飲んでいた。…その飲み方の色気がはんぱなくって喉を鳴らした。あたしはジュースだったけど。
「…おいしそう」
運ばれてきたのフェットチーネっていうパスタを平たく太くした感じのものだった。
「十年後のお前はそれが気にいっててなぁ、アジトでも作ったぜ」
「あたしが?」
「いや、それはオレだったがなぁ」
ちょ、十年後のあたしスクアーロに料理作らせるってどんだけ偉そぶってたんだ。
「名前は和食なら作れるんだが、それ以外わなぁ」
「おっしゃる通りです…」
お寿司やちらし寿司ならどんとこいだけれど、前に頑張ってオムライスを作ったら見事に卵は穴だらけだった。
「それ食ったらあの場所に行くかぁ」
「あたしとスクアーロの秘密の場所?」
「あ゛ぁ」
「行く!あ、でもデザートも頼んでいい?」
「お前なぁ…」
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オレと名前の秘密の場所はここから少し遠い。なんせ名前がスイスからの任務の帰りに見つけた場所だからなぁ。
「それでね武が野球の大会でー…ふぁあ」
「眠いのかぁ?」
「ん、少し」
「寝てろぉ、着くまでまだ時間がかかる」
「むー…でも、」
運転席の横でくびをかっくんかっくん動かせながら話す名前。そっちの方が気になって運転出来ねぇじゃねぇか。
…静になったと思ったら、名前が寝息をたてていた。長い睫を伏せて規則的に肩を動かしている。
目の前にいる名前は十年後よりもはるかに幼いが、少しだけ十年後の名前が本当に横にいるような錯覚に陥った。
だが、目の前にいる名前もあと三日経てば過去に帰ってしまう。また名前がいない世界に逆戻り、かぁ。
「んー…むぅ…」
横で寝返りを打つ名前に、オレは信号が赤になった隙に頬に小さなキスを落とした。
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