「なんでパン食い競争がないの!?」
「オレに言われてもなぁ…」
体育祭準備が始まってから、昼時の学食はしばらく休業らしい。全く持って不便だ。だからスクアーロ先生には購買のパンを奢ってもらってる。
購買の田舎パンは神だと思う。昔ゲームで食べたら回復するときに使ったパンにそっくりだから。食べると体力が回復する気がする。
「雨芽は何に出るんだぁ?」
「障害物と借り物と疾走とリレー」
「走ってばっかじゃねぇか」
「なぜか足だけは速いんだよね」
「頭の良さが全部運動神経になっちまったんじゃねぇか?」
スクアーロ先生とはなんて失礼な男なんだろう。ニヤニヤと人が気にしてるとこばっか言いやがって。
「ついてるぞぉ」
「むがっ」
田舎パンが食べ終わって、2個目のシーザーサンドイッチに取りかかってたら、ぐいっと先生に指で口元を拭われた。
…やっぱり地味に痛い。先生はそのまま指をペロって……ペロ?
「待て待て待て待て!」
「んだぁ?いきなり大声出しやがって」
「いつもうるさい先生に言われたくない」
「あ゙ぁ?誰が大声出させてると思ってんだぁ?オレは本来なら静かに過ごしてたはずだったのによぉ」
…嘘だ。先生が静かになる日なんて地球が滅んでもこないよ。って、言いたかったのはそういうことじゃなくってね、…なんか心臓がばくんばくん痛い。
「2人とも仲良しなのね」
「志帆先生!」
「ご一緒してかまわないかしら?」
「どうぞ!どうぞ!」
「…オレは戻るぞぉ」
志帆先生が来たと同時にスクアーロ先生は帰ってしまった。せっかく志帆先生が来てくれたのに付き合い悪いなー。
チラッと志帆先生を見ると、志帆先生はスクアーロ先生が行った先をじぃーっと見つめていた。でもすぐにこっちを見てまたニコリと笑った。
「雨芽ちゃんとスクアーロ先生って本当に仲良しなのね」
「仲良しっていうかなんていうか…一緒にいることがなぜか多いだけでふ」
むぐむぐと3個目のあんぱんを頬張る。やっぱり日本人はあんぱんが命だと思う。張り込み刑事もあんぱんと牛乳が命らしいし…って、どっかの漫画に書いてあった。
「ねぇ、雨芽ちゃんってスクアーロ先生のこと好きなの?」
「むぐぅ!?」
「だっ大丈夫!?」
あんぱんを喉に詰まらせてしまった。ゆすゆすと志帆先生が背中をさすってくれる。…面目ない。
「ありえない、ありえない。あたしがスクアーロ先生を好きだなんて、地球が滅亡するくらいありえません」
「そうなの?ふーん…じゃあ雨芽ちゃんにお願いしちゃおっかなぁ」
「お願い?」
「あたしね、スクアーロ先生が好きなの」
志帆先生がスクアーロ先生を好き?あのジミーでうるさいスクアーロ先生を?この志帆先生が?
…確かに、スクアーロ先生はイケメンだし、優しいし、いざとなったらなんかカッコイイし…ん?なんで褒めてんだろう?
「それでね、雨芽ちゃんに協力してほしいの!」
「協力、ですか?」
「もちろん、ただでとは言わないわ!購買の幻のデラックスチョコパンでどうかしら?」
「やります!」
購買の幻のデラックスチョコパンといえば、午前の授業が終わった瞬間から争奪戦が始まって、3分でなくなってしまう幻のパン。略してデラチョコ。
「ふふ、ありがとう。じゃあまた、よろしくね!」
「はーいっ」
笑顔で去っていった志帆先生。……なんだろう、なんか胸の奥がずんぐりと重たいしもやもやする。胸やけとかじゃないし…気のせいかな?
志帆先生から貰ったデラチョコを袋にしまい、代わりに4個目の焼きそばパンを頬張った。うん、おいしい。
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「っていうわけなの」
「雨芽って馬と鹿って書いて馬鹿じゃね?お前それでいいわけ?」
「ベルセンパーイ、雨芽には漢字の馬鹿よりカタカナのバカが似合いますよ」
「え、あたしひらがながいい」
放課後、ベルの部屋にフランと遊びに来た。ベルに借りていた教科書を返すだけのつもりだったけど、入れよって言うからお言葉に甘えた。
「そういう話じゃねーよ。志帆って奴王子は好きになれねーな」
「ミーも同感ですー。雨芽のこと協力させるっていうより、利用してるだけじゃないですかー」
「んな馬鹿な。デラチョコくれたよ」
「デラチョコくれる奴は誰だっていい人とは限らねーんだよ」
「むぐっ。…でさぁ、協力ってどうすればいいと思う?」
デラチョコを頬張りながら、ベルたちに聞く。志帆先生に協力ったて何をしたらいいのか分からない。恋愛相談とか受けたの初めてだったし。
というか恋愛自体よく分からないあたしに、よく先生は協力なんてお願いしたなー。
「つーかお前はそれでいいのかよ?後悔しねーの?」
「後悔?なんであたしが?」
「はぁ…じゃあ雨芽は今からミーがする質問に答えて下さーい」
「あい、分かった」
「雨芽はベル先輩のこと好きですかー?」
「むぐぅ!!!」
本日二回目の喉詰まり。意外とこれ苦しいんだからね!ドンドンと胸を叩く。あー死ぬかと思った。
「単純に答えて下さーい。人間的に好きか嫌いかでいいんですー」
「そういうことか…うん、好きだよ」
「じゃあ山本先生はー?」
「めっちゃ好き」
「雲雀恭弥とししょーは?」
「好き、かなぁ?」
「じゃあミーは?」
「好きだよ」
なんなんだこの質問。人に好き好き言わせて何が分かるっていうの?ベルはベッドに転がりながらニヤニヤ聞いてるし…。
「最後にスクアーロ先生は?」
「んと………好き、」
スクアーロ先生が好きかどうかなんて考えたことなかった。そりゃあ学食を奢ってくれる時点でいい人だなーって思ってるけど。
でもベルたちみたいな好きっていうわけじゃなくってー…なんかもっとこう…よく分かんないけど。
「雨芽って分かりやすいですよねー」
「うししし、これからが楽しみだなー」
「? あ、これから食堂行こうよ、夜はやってるしスクアーロ先生の奢りで」
なんか胸はもやもやするし、これはもう食堂でぱぁーっとするしかない。って2人に言ったらフランはため息をついて、ベルはニヤニヤしていた。なんて失礼な二人組なんだ。
(もしもしー?夕飯奢ってください)
(なんでスクアーロ先生の電話知ってるんですかー?)
(補習のときに交換したらしいぜ)
(ふーん……)
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11/04/23
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