「確かに出るとは言ったよ?」
「じゃあいいじゃねぇか」
「うっせーこの野郎。何が悲しくてメイド服のまま出るんだよ」
「客寄せだ、客寄せ」
「あたしで何が釣れるんだよ!」
「海老で鯛は釣れるらしいがなぁ」
「関係ないしっ!何なの?え、死ねって言ってるの?」
ありえない、ありえない。制服に着替えてミスコンに出ようとしたら、スクアーロ先生に止められた。
メイド服で出場しろ、だと!?嫌がらせじゃん。
あたしはいつから公衆の前で醜態を晒すドMになったんだ。
「まぁ、もしも何かあったらオレが守ってやるからよぉ」
もしもとは、さっきの男たちみたいなことか。何か不覚にもときめいた。
守ってやるとか言われてときめかない女はいないでしょ?しかも相手はイケメンのスクアーロ先生。
「うぅー…海老で鯛を釣ってやろうじゃない」
「せいぜい頑張れよぉ」
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「さぁ始まりまったわよ〜!ボンゴレ学園ミスNo.1決定戦!!」
…あの司会者怪しすぎるでしょ。肉体美なのにお姉口調。
…ボンゴレ学園って本当に何がしたいんだろう。
そんなこと言ってたら学園長に分厚い辞書投げられるか。
「一年生代表は蓮野雨芽ちゃんよ〜!出てきてちょうだい」
うえっ!?呼ばれた…?なんか柄にもなく緊張してきた…。
「雨芽、手と足が一緒に出てますねー」
「クフフ、それも彼女の魅力のひとつです」
会場にいるフランと骸の会話なんて知ったこっちゃない。
…というか、会場には全校生徒いるんじゃないかってくらい人が集まっていた。
…もしかしてあたし死ぬ?うん、あれだよ、あれ、人を野菜だと思えばいいんだ。
…やきいもだと思おう。
「さぁ、みんな揃ったわね〜!」
あれ?入学式のときにスクアーロ先生の腕に巻きついていた先輩がいる…。
なんかこっち睨んでる?…スクアーロ先生とどっちが怖いかって言われたら、間違いなくあたしは先輩を選ぶ。
「じゃあ、特技発表してもらうわよ」
「特技、発表?」
「そうよ、インパクトのあるものをバシーッとあたしにぶつけてちょうだい!」
いやいやいや、聞いてないよ!何、特技発表?え、特技?あたしの特技…あ、あれが出来る。
「じゃあ、3年生からどんどんいきましょうね」
肉体美司会者の合図で、先輩がどこからかマイクを取り出した。
すげぇこの人。こんな大勢の前で歌ってる。
「上手ねぇ〜…でも、あたしの方が上手いわよ!」
そこで肉体美司会者張り合うの!?…ギター取り出して先輩のステージ奪ってるし。恐るべし、肉体美。
2年生の先輩は…着物。着物を着て生け花してる。めっちゃ綺麗…。
英語で言うなら、まっちびゅーてぃふぉー。
「んまぁ綺麗!でも、あたしの肉体美に比べたら…ねぇ?」
ここでも張り合うんかい!?え、ポーズ決めてるよ?周りの人どん引いてるよ?この後にあたしが特技発表すんの?
「さぁ!次の子いらっしゃ〜い。このルッスーリアが倒してあげるわ〜」
趣旨違うよね?肉体美司会者に倒してもらうって趣旨違うよね?っていうかるっすー…るっすー…ルッスって名前なんだ。
「蓮野雨芽です!食堂のメニュー全部言えます!」
「…食堂のメニュー?」
「えと、日替わりランチA〜Cセット、焼き肉定食、弱肉強食、カルボナーラ、ペペロンチーノ、オムライス、季節のお野菜たっぷりカレー…それから…」
「ちょ、ちょっと待ってちょうだい!それが貴女の特技なの?それと弱肉強食は絶対メニューにないわよね!?」
「あれです、裏メニューです」
「う、裏メニューですって!?」
あたしの食堂愛を舐めないでほしい。なんせ三食食堂。朝から晩まであたしと食堂のランデブーよ!
「そ、そんな特技もあるのね…負けたわ」
「あたしに食堂愛で勝つなんて十年早いんですよ」
「そのようね……優勝は一年生、蓮野雨芽ちゃんよ〜!」
「…え?」
え、これが勝ち?なに、肉体美のルッスさんを倒して終わり?
…これってミスコンじゃなくて、ただのルッスさんとの勝負じゃん。
「貴女のその素晴らしい特技には負けたわ…さぁ優勝商品を受け取ってちょうだい」
「ルッスさん…ありがとうございます。で、なんでここにスクアーロ先生が?」
「あら、優勝商品はスクちゃんになんでも一つお願いしていいのよ?」
食堂一年間無料じゃないの!?気まずそうに目をそらすスクアーロ先生。
はめやがった…。なにこの教師、うざい。
…ん?でもスクアーロ先生を好き勝手していいんだよね…。じゃあ、
「先生、あたしが卒業するまで食堂で三食おごって下さい、毎日」
「毎日ってー…ゔぉおい!どんだけ金払わす気だぁ!?」
「先生、よく考えて。あたしを騙したことをこの大勢の前で言いふらすよ?」
「てめぇ…本当に性格悪いなぁ」
「騙したスクアーロ先生が悪いんだ。あたしは無実」
小声でスクアーロ先生を脅してみたら、案外すんなり受け入れてくれた。
うん、きっと学園長に知られるのが怖いんだ。流石のスクアーロ先生も学園長には適うまい。
「明日からよろしくお願いしまーす」
「覚えとけよぉ…お前はオレの雑用係だってことをなぁ」
「うげっ!?」
ギロッと睨んでくるスクアーロ先生から衝撃の一言。…あたしってこれからどうなるの?
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肉体美ルッスさんとの対決…正しくはミスコン…が終了してやっとメイド服とおさらば出来る。長かったなぁ…今まで。
「このメイド服どうしよう…?」
この先このメイド服を着るなんてことはないし、あったとしてもあたしは絶対着ない。
まぁいいや、家に飾っておこう。服は可愛いし。服はね、服が可愛いの。
メイド服をカバンにしまって、制服に着替えてさぁ行こうとしたら、さっきミスコンに出ていた3年生の先輩がいた。
「あ、お疲れ様でーすっ…」
とりあえず挨拶はしておこう。そしてこの先輩は苦手だから、光以上の速さで教室に行こう。頑張れ、あたしのあっしー!
ガツンッ。
「…なんですか?」
怖い、怖い、怖い。ドアを足で蹴って閉めたよ、この先輩。…足痛くないのかなぁ。
「ありえない、なんであんたみたいな貧相な女が優勝なの?」
「へ?」
「食堂のメニュー全部言えるとかウケ狙い?スクアーロ先生の気を引きたいだけでしょ?」
「スクアーロ先生の?」
「あたしが優勝してスクアーロ先生とデートするはずだったのに」
…スクアーロ先生?なんでここでスクアーロ先生が出てくるの?
あれか、この人もスクアーロ先生の被害者か。
「あなたもスクアーロ先生が好きなんでしょ?」
「…はぁ?」
「あんたみたいな女に負けないから」
先輩は言うだけ言って去っていた。あたしが、スクアーロ先生を、好き?…うん、ありえねぇええええ!
「誤解を生んでしまった…」
うん、いいや。あたししーらないっ。
こうしてあたしの学園生活初の学園祭は幕を閉じた。
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11/04/10
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