「ぐすっ」
「…怖かったよなぁ、もっと早く来てやれればよかったんだが」
「ううん、来てくれてよかった」
あのまま先生が来てくれなかったら、どうなってたんだろう。
思い出しただけでも気持ち悪い。
男たちのニヤついた顔、あたしを触る手、肌にかかる息、耳障りな声。
「せんせ、どうしてきてくれたの…?」
「雨芽が更衣室に入るのが見えてなぁ、その後あいつらが入ってきてまさかと思って来てみりゃあ…」
「…本当にありがとう、先生」
「なんかお前が素直だと気味悪ぃぞ」
「んだと、この野郎」
「痛ぇ!」
なんて失礼な先生なんだ。人が素直に礼を言っているのに。
むかついたから、髪を思いっ切りひっぱってやった。
「やっといつもの調子に戻ったな」
「へ?」
気がつくと、さっきまで震えていた身体の震えが止まっていた。
先生、もしかしてわざとー…なんだか胸の奥がきゅうぅっとした。なんだろう?
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「オレはさっきの奴ら片付けて来るから、お前は着替えたら教室に戻れ」
「はいよー」
先生は保健室まであたしを連れてきてくれた。生憎、保険医さんはいなかったけど。
「お、こんなとこにいたんだ雨芽」
「ベルじゃん」
先生と入れ違いでベルがやって来た。…なんで浴衣?しかもお面までつけてる。
「オレんとこ縁日やってんだよ」
「ほほーう、それはそれはベルに恐ろしい程似合わないね」
「なに、オレに喧嘩売ってんの?」
真っ白な歯をむき出しにして笑うベル。目が見えないけど、絶対に目は笑ってないよね。
「そういゃあ、アレって本当?」
「アレ?」
「まさか知らねーの?この紙見てみ」
ベルに渡された紙を見てみると、大きな太字ででかでかと「ボンゴレ学園のミスNo.1は誰だっ!?」と書かれていた。
そういえば、スクアーロ先生のクラスはミスコンとかっていってたなぁ…。
「これがどうしたの?」
「出場者のとこ見てみろよ」
「んー?」
出場者…おおう、美人さんが勢揃い。一年生って誰が出るんだろう。
…一年生、蓮野雨芽。
「え、あたしの名前?」
入学したときに撮った個人写真と共に、あたしの名前が書かれていた。
「…べル、これどういうこと?」
「雨芽がミスコンに出るってことじゃねーの?」
「じゃねーの?じゃねーよ!」
ミスコンってあれだよね、学園の可愛い子No.1対決みたいなやつじゃん。
なんであたしが入ってんのよ!あれだ、絶対手違いがあったんだ。
「まぁ、そんな格好してれば入るんじゃね?」
「恐るべき…メイド服の力」
「それにお前可愛いし」
「……はい?」
今、なんて言った?ベルの口からありえない単語が出てきたんだけど。
「可愛いつってんじゃん。何?照れてんのかよ、うしし」
「ベル」
「んー…痛っ!?」
絶対こいつ熱があるんだ。
あたしはおでこをベルのおでこにくっつけて、ぐりぐりしてみたが…熱くない。
「何やってんだぁ?お前ら」
「スク先生じゃん」
「先生、ベルがおかしい。絶対熱があるに違いない!」
「可愛いつっただけだけどな」
「面倒くせぇ奴らだなぁ…」
呆れ顔のスクアーロ先生。いや、なにも呆れることないじゃん。
可愛いなんて言われ慣れてないし。
「スク先生は何しに来たわけ?」
「雨芽を呼びに来たんだぁ。こいつ、ミスコンに出るからな」
「先生、手違いです。絶対にありえない」
「一年生投票の中でてめぇが一番多かったんだぁ。覚悟しやがれ」
「やだ。メイド服でさえすごい覚悟がいったのに、ミスコンなんて出たら死ぬ」
「優勝商品は学食一年間無料パスだぜ?」
学食一年間無料パス…だと?なんておいしい響き。
いや、でも…あぁ無料パス…えぇーなんか嵌められたとしか思えない。
「雨芽がそんなんで出るわけー…」
「出る」
「即答かよ」
ベルのことは無視して、このさいとことんやってやろうじゃないか!学食一年間無料パスのために!
「スク先生、学食一年間無料パスなんて嘘だろ?」
「ん゙?あぁ、そうでも言わねぇと雨芽は出ないからな」
「うしし、雨芽って本当扱いやすいよなー」
「学食ー!オムライスー!パスター!」
そんな二人の会話なんて耳に入らず、あたしは学食一年間無料パスを獲得するために燃えていた。
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11/04/08
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