真っ黒な水たまりに足を入れてみたら、ずぶずぶとのめり込んでいって、もがいても、もがいても沈んでいくばかり。


ああ、あたし死ぬんだなと思ったら、一筋の光が射してそこから伸びてきた腕にあたしはしがみついた。そうやって、何度も何度もあたしは助けられていたんだよ、ボス。




「ゔぉおい、風邪ひくぞぉ」


「いいの」




ゆりかごから8年。いまだボスは帰ってこない。冷たい氷の中で、一人春の暖かさにも気づかず、夏の蒸し暑さにも、秋の深い紅葉にも…まったく気づかないで、一人寒い冬を過ごしている。


そんなボスだけに、一人寒い冬を過ごさせるなんて惨いこと、あたしはさせたくない。だから任務がないときにはこうして、ボスが眠っている氷の棺の前で待っている。




「いい加減にしろぉ」


「スクアーロは寒いの?」


「そりゃあここにいたらなぁ…」


「あたしは寒くないの」




長時間、1日、数日、一週間、数週間ここにいようとも、あたしは寒さを感じない。なんでか分からないけど、ただボスを見つめているだけで周りの環境を忘れてしまう。




「…そうかぁ」




スクアーロは優しい。スクアーロの任務がないときには、こうしてずっとあたしと一緒にボスが目覚めるのを待ってくれる。


本当は本部に押し付けられた雑務のせいで忙しいはずなのに、無理して一緒にいてくれてる。




「ボス、いつ起きるのかな?」


「さあな、なんせボスのことだからよぉ」


「ボスは気まぐれだもんね」




まるでおっきな気まぐれの黒猫。周りの心配をよそに、一人でふらふらとどこかに消えては、いつのまにか戻ってきている。


ボスも何日もいなくなっていたかと思うと、いつのまにかいつもの部屋で、いつものように椅子に座って目を閉じている。


ねぇ、ボス。たまには周りのあたしたちも視界に映してね?






xxx






任務の帰りは必ずボスの部屋に寄る。もしかしたらボスが帰ってきているんじゃないかと信じて。




「ボス、今日の任務も無事終了しました!」




誰もいない部屋であたしの声が響く。ボスがいたら、頭を撫でてくれる。あたしの好きなお菓子を用意していてくれる。…だけど、誰もいない。




「ボス…」




それでもあたしは、ボスの帰りを待ち続ける。ボス、早くあなたに逢いたい。



そう思った瞬間、部屋の扉が開いた。またスクアーロが探しに来てくれたのだろうと思い、振り返ったら深紅の瞳と目があった。









せめて春の暖かさを感じて
(やっと貴方に触れられる)


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by 真 白



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