(04)
カルマという人物は村でも老若男女問わず評判のいい医者らしい。村では比較的若い層にあたるようで社交性もあり、腕も確かだそうだ。人を救う立場にある彼がなぜ人を殺そうとしたのか――しかも相手が婚約者だというのだから到底穏やかな話じゃない。
ただの痴話喧嘩にするには過激すぎるのだ。

買い物に行く予定だったというエリザベスは俺が勧めても断固として手ぶらでそのまま帰ろうとはしない。成り行きではあったが自身も市場へ付き添うことにした。

「ウィラードさんはどうしてあんなところに?」
「海岸に行きたくてね。下りる場所を探してたんだ。」
「…海岸に下りる階段は向かってきた方向と反対方向ですよ?」
「……そうなんだ。」

まあ、かえって知らなかった方がよかったのかもしれない。俺がこちらに来なければ彼女は死んでいたかもしれないわけだし。結果オーライというやつだ。
森を横断しきって、足場が砂地から石畳に変わったところで俺はエリザベスの隣に並んだ。生憎森の道には二人並べるスペースはない。クリーム色の家々が並ぶ道をしばらく歩いていけば様々な色や形をした市場の屋根が見えてくる。人の集まりもそこだけいいので遠目でもわかりやすかった。
店の人間は、行き交う人、店の前で吟味する人、あるいは無差別に多種多様な売り文句を並べている。よくもまあこんなにボキャブラリーがあるものだと感心する。

「ごめんなさいタニー、そこの果物三ついただけるかしら。」
「まあ、エリザじゃない!あんたカルマ先生っていう男がいながら誰連れ回してるのよ。」
「やだ、そんなんじゃないわ。」

栗色の髪と頬に散ったそばかすが印象的なタニーというこの女性とエリザベスは親しい仲らしい。エリザベスが浮かべる笑顔を上品とするなタニーは明朗快活といった具合だろうか。紙袋に黄緑色の果物を丁寧かつ手早く入れて慣れた様子でこちらに差し出してくる様はきっと長年同じことを繰り返してきた賜なのだろう。
それを受け取ろうとしたエリザベスの袖から白い布がちらりと見えた。

「持つよ、荷物。」
「え?」

タニーの店から少し離れたところで彼女にそう言った。渋るエリザベスから半ば無理矢理それを抜き取る。勿論、盗むとかそういうのじゃなくて。

「腕、怪我してるだろ?」
「えっ、ああ…見えたの。」

怪我っていうより火傷痕を隠すためのものなの、そう言いながら先程の白い布――包帯がまかれているのであろう場所をさする。結構な広範囲に及んでいるらしいそれはきっと痛々しいものなんだろう。
それだけでなく、女性の身体に痕が残るというのは心身ともにキツいものではないのだろうか。

「自分で言うのもなんなんだけど、結構酷い有り様なの。でもこんな身体でもカルマはいいって言ってくれたわ。」

エリザベスの頬に桃色がさした。その婚約者であるカルマとの先程の出来事は全く気にもしていないらしい。

「出来れば綺麗な身体のまま彼のもとに行きたいんだけど。」

エリザベスは次は此処だと言って俺を手招きした。

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