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She is beautiful


窓枠に座って外を眺めている名前をじっと見つめる。ワシのこの視線に名前はまったく気づかない。当然じゃ。だって名前はアイツばっかり見とるから。ちょっとくらい、ワシのことも見てくれたっていいじゃないか。悔しくて右手を握り締めたら、さっきアイスバーグさんに持っていってくれと頼まれた書類がくしゃりと鳴った。危ない危ない。あまりに名前が綺麗で、見惚れとった。


「名前、書類、ここ置いておくぞ」

「あ、ありがとうございます、カクさん」


視線を外からワシのほうにうつして、ふわっと笑ってくれた。ああほんと、なんでこんなにかわいい子がパウリーなんかを好きなんじゃろうか。パウリーは借金もたくさんあるし、甲斐性もなさそうじゃし、がさつじゃし。それに比べてワシはどうだ。優しいし、一途な自信だってあるし、背だってパウリーよりは高い。ほれみろ、絶対ワシのほうがいい男じゃ。


「名前は、パウリーばかり見とるな」

「……あはは、気づかれちゃいました?」


さらさらな長い髪を耳にかけて困ったように笑う名前に、調子をあわせるようにワシも曖昧に笑った。


「内緒ですよ?」

「もちろんじゃ」

「カクさんは、好きな方とかいないんですか?」


笑った顔のまま、なんとも形容しがたい気持ちに襲われた。どう言えばいいんじゃろうなぁ。ここで、お前さんじゃ。なんて言えたら、ワシはすっきりするじゃろうか。名前は、少しはワシを意識してくれるじゃろうか。


「……おる、な」

「え、そうなんですか!?」


誰ですか!?一歩ワシに近づいてきた名前から、いい香りがした。抱きしめたい。パウリーなんかに渡したくない。名前を捕まえて、行方をくらましてやりたい。それが、できるなら。


「あれ、ルッチさんの鳩だ」


名前のその言葉で一気に現実に引き戻された気がした。名前の腕をつかもうとしていた手を慌てて引っ込めて、背中で握り締めた。ハットリが、まるでそちら側に行くことは許さないとでも言うように鳴いた。


「うそじゃよ」

「え?」

「好きな人、おらんのじゃ」

「なんだ、そうなんですかー」


でも、カクさんならきっといい女の人見つけられますよ!満面の笑顔で言われた言葉が胸に痛い。ワシの中で、一番いい女ならもう見つけておるよ。決して自分のものにはならないけど。まあそんなこと考えてるなんてちーっとも顔に出さずに、ありがとうと言っておいた。あーワシ不憫。




She is beautiful
(彼女は世界中で一番美しい)


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