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或いは名残の薬指


「同級生の鈴木、覚えてる?」
「あ?鈴木?……あぁ、覚えてるぜ。眼鏡かけてたやつだろ?」
「うんそう。アイツね、結婚したんだって」


どんなリアクションも見逃さないように新八をガン見しながら言ったら、案の定飲んでいたコーヒーを噴出しそうになってむせていた。こんなに分かりやすい反応するなら、ガン見するまでもなかった。高校のときに付き合って、かれこれ六年くらいの付き合いになる。そろそろ結婚の話が出てもいいんじゃないかと私は待っているわけだけど、新八にその様子は一切ない。だから少しカマをかけてみたんだけど、まったく考えてないってわけではなさそうだ。よかった。これでお前と結婚!?はっ笑えるぜとかそういう反応をされたら、私人間不信になるところだった。


「そそそそそそうなのか!めでてぇな!」
「そうだね。めでたいね。ちなみに付き合って半年でゴールインなんだって」
「半年!?そりゃいくらなんでも早すぎじゃねーのか!?」
「六年はいくらなんでも遅すぎだと思うけどね」


ぐっ、新八が言葉に詰まる気配がした。ふん、困ればいいんだ。私は頬杖をついて新八から目を逸らしてテレビを見た。テレビの中ではインタビューされているカップルが幸せそうに笑っていて、なんだかとても腹が立った。こいつらは、結婚なんてまだ考えてもいないんだろうな。


「………」
「…………名前、サン?」
「なに」
「………いや、なんでもねぇ」


新八がリビングから出て行く音がした。また、やっちゃった。最近ずっとこうだ。私がずっとイライラしている。こんなことしてたら、新八に愛想尽かされちゃう。わかってはいるけど、この先が不安で不安で、仕方ない。
涙が出てきて、膝を抱えた。


「その、……名前」


出て行ったはずの新八の声が聞こえて、慌てて涙を拭って顔をあげる。ドアがあけっぱだ。だから出て行って戻ってきてないって思ったんだろう。膝を抱えていた私を包むように新八が抱きしめてくれた。久しぶりに新八に触れたような気がして、たくましい首筋にすがりつくようにして腕を回そうとしたら、なんでかストップをかけられた。


「なん、で?」


嫌な考えが頭をよぎる。嫌われた?こんな面倒くさい女いやになった?別れるの?
慌てて拭った涙がまたあふれてくる。それを見た新八が慌てだして、違うんだ!とかって両手を振ったら、何かが落ちた。コトン、音を立てて落ちたそれに視線を向けると、黒い、四角い箱。


「これ、」
「あぁ!ま、まってくれ!」


新八の言葉も聞かずに箱を開ける。入っていたのは、細いシルバーの指輪だった。思考がついていかずに、ただ新八を見る。


「新、八?これ、」
「あぁ……かっこうよく渡すつもりだったのによ……。最近、悩んでるのは分かってた。でも、俺競馬とか好きだしよ、教師って中々休みなくて、お前との時間作れねぇしよ、俺が、プ、プロポーズして、お前は幸せになれるのかとか、考えてたんだ」



「でも、やっぱり、俺は、お前を嫁にしたい」




或いは名残の薬指
(俺と、結婚してくれ)



title by 花畑心中



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