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バスルームラプソディ



「ぷっはぁ」


お風呂に入って今日一日の疲れを落とす。今日はカリファさんが風邪でお休みで、社長秘書の役目が私にまわってきた。みんなアイスバーグさんは大好きで仕方ないけど、隣にいるのは気が引けるんだって。複雑だね。私はアイスバーグさんのことは尊敬してるし好きだけど、隣に立つのに気後れするほどではない。あ、決して自分に自信があるからとか、そういうのではない。
それにしても、秘書の仕事とはあんなに大変なものなのか。キャンセルしていい予定と行かなければいけない予定を選別して、会食に行きたがらないアイスバーグさんを引っ張っていって、他の会社のオッサンたちの前ではニコニコ笑っておいて、帰りの列車の時間を確認して……とりあえず、普段辛いと思っていた事務仕事が楽勝に思えるほど大変だった。


「カリファさん、風邪大丈夫かなぁ」
「大丈夫じゃぞ。熱はひいたらしい」
「よかった!私あんな仕事二日も持たな……い」


今私誰と会話したの、瞑っていた目を開いたときには時すでに遅し、風呂場のすりガラスの向こうに人影が見えた。ああああちょっとその鼻あああ!


「なん、なんでカク!?勝手に入ってきて!?」
「無用心じゃぞ、女の一人暮らしで鍵をかけんのは。入ってきたのがワシだったからよかったものの……」


ガラスの向こうの人影は明らかに服を脱いでいた。ぽい、ぽい、洗濯物を入れるカゴに服が投げ入れられている。逃げようと思っても逃げ場はゼロ。とりあえず口がかくれるくらい湯船に浸かった。これで見られまい。ガラ、扉があいた。


「何、平然とした顔で入ってきてるんデスカ」
「今更気にする仲でもないじゃろ?ほれ、寄って寄って」


頭からシャワーを浴びたカクが私に向かって寄れ、とジェスチャーをしてきた。素直に浴槽の端っこによると、空いたスペースにカクが入ってくる。お湯が少しあふれた。


「っはぁ。やっぱりシャワーより風呂じゃな」
「カク、おじさんっぽい今の台詞」
「はは、気にするな」


腕を引っ張られて、足の間に座らされた。後ろからカクの腕が伸びてきて、抱きしめられる。大工仕事でついたらしい傷が目に入って、ゆっくり指でなぞってみた。くすぐったかったらしく、後ろから笑い声が聞こえる。


「痛くないの?」
「これか?そうじゃな、痛みはせんの」
「ふうん……」


しばらく腕の古傷をなぞっていたけど、飽きて後ろにいるカクにもたれかかった。あー、疲れた。思わず口からでた本音が風呂場で反響する。言ってから、毎日毎日現場で力仕事に従事しているカクのほうが疲れてるんじゃないのかって思った。ごめんよカク。でも私も私なりに疲れたんだ。

目を閉じて体から力を抜く。素肌同士が触れ合っているところが温かい。お湯に、カクに、暖かいものばかりに囲まれて幸せだ。不意に頭を撫でられて、カクの声が風呂場に響く。


「よく頑張ったの」
「……うん」
「慣れない仕事は疲れるからの」
「………そだよね」
「まあ、できれば、ワシ専属の秘書をしてほしかったところじゃが」
「……こんど、ね」
「今度か」
「うん、こんど」


ゆっくりと頭を撫でてくれるカクの手が、労わってくれるカクが、すごく愛しく感じた。





バスルームラプソディ
(寝てしもうたか)
(寝顔もかわいいの)



title by 花畑心中


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